年頃の少年らしくハレンチな話題でひとしきり盛り上がった後は、真面目な顔に戻した清がやっと悩み事を口にした。
「卒業したら文子さんに求婚したいと本気で考えている。彼女の弟妹の面倒もみるつもりだ。だがその前に、恋心を打ち明けておきたい。そうしなければ卒業前に他の男に取られてしまうかもしれないからな。それで、ふたりでどこかへ出かけたいと思うのだが、どこへ誘えばいいのか……」
結婚まで真剣に考えていると聞かされたら、もう笑うことはできない。
「逢引の相談か」と幸治が真顔で確認すれば、「それは古い言い方だ」と大吉が真面目に指摘する。
「フランス語では、ランデブーと言うらしいぞ。雑誌に書いてあった」
「そうなのか。では僕もそう言おう。文子さんとランデブーしたい。どこへ行けばいいだろう?」
相談した結果、行き先は“活動写真”とした。
それは白い布に動く写真が映し出され、弁士という職業の者が解説を加える見世物だ。
入場料は二十銭と手頃で、清でも無理なくふたり分を払えるのが良い。
函館には常設館が十三もあり、どこも賑わっていると聞く。
平日は夕方から夜までの上映で、仕事や学校終わりに観る者が多いようだ。
大吉達はミルクホールを出ると、音羽(おとわ)館という大きな劇場に向かった。
収容人数はなんと、千四百人。
そこで前売りの入場券を二枚買い、今度は文子の住む長屋へ行く。
「君たちはもう、ついてこなくていいぞ」と清に言われたが、大吉と幸治は頷かない。
「どうなるか、結果を見届けねば」
「もし文子さんが断るようなら、僕らが説得しよう。親友だからな」
清を心配しているようにも聞こえるが、実のところ文子に会ってみたいという興味の方が大きい。
美人で豊かな胸をしていると聞かされたら、そうなるのは仕方ないだろう。
長屋に着いた頃には、日は随分と西へ傾いて空が茜色である。