「これが本物のオムレツライスなのですね。美味しかった。僕が作ったものと大違いだ」
そのような感想を口にした時、左門はまだ料理に手をつけていなかった。
紅茶碗に角砂糖をひとつ落とし、ふと顔を上げて怪訝そうに問う。
「僕が作ったとは、どういうことだ?」
大吉も紅茶に角砂糖を三つ溶かし、ミルクをたっぷりと注ぎながら、それに答える。
「僕の実家は……」
大吉の実家は函館ではなく田舎の漁村で、兄弟は五人いる。
忙しい母親は大吉の望む洋食を作ってくれたことはなく、大吉は男子ながら時折台所に立っていた。
家族の食事の支度をするというのではなく、あくまで自分の食欲と好奇心を満たすためにである。
田舎の中学にも裕福な家の子供がいて、こんなものを食べたと大吉に自慢してくることがあった。
函館のレストランでオムレツライスを食べたという話をされた時には、大吉は羨ましくて、帰ってからなんとか作れないものかと試行錯誤した。
台所にあるものなら自由に使って良いと母に許されても、圧倒的に食材は不足している。
卵と米と食用油はあったが、トマトにバター、玉葱も鶏肉もない。
それで、長葱と油揚げを具材にご飯を塩で炒め、薄っぺらく焼いた卵で包み、上から甘辛い醤油だれをかけてみた。
まずくはなかったが、オムレツライスとは呼べない料理であった。
またある時には、同じく裕福な級友が、夕飯でライスカレーを食べたのに朝飯にまで出されてうんざりしたと自慢してきて、大吉の頭はカレーで一杯になってしまった。
それも作って食べようとしたが、家の台所にカレー粉がないのは致命的である。
それで、なけなしの小銭を握りしめ、調味料を売る近所の商店に走ったのだ。
けれども料金不足でひと缶を買うことはできず、頼み込んで量り売りをしてもらった。
手に入れられたのは、ひと匙のカレー粉のみ。