お玉で、慎重にアクだけをすくっていく。普段は厨房で働く一心さんを見ているだけだから、こうしてお手伝いできる機会がうれしい。

「なによ、うれしそうな顔しちゃって。そんなに芋煮が楽しみなの?」

 顔がにやけていたのを響さんに指摘されて、ぎくっとした。

「は、はい。外で食べるごはんっておいしいですし」
「そういえばお花見以来ね。あのときより人数もパワーアップしてるけど、なにげに一心ちゃんが一番変わったかも」
「そうか?」

 一心さんは興味なさそうに野菜の煮え具合をチェックしている。

「前だったら、こんな行事自分から率先してやらなかったでしょ」
「そうかもしれないな。今回は、おむすびがやりたいと言ったから……」
「えっ」

 響さんと同時に驚きの声が出てしまう。きっ!と睨まれたので、わけもわからないまま小さくなるしかない。

「なにそれ、おむすびのために決めたってこと!?」
「そうじゃない。みんなが喜んでくれるという言葉を聞いて、それもいいかなと思っただけだ」
「ああ……、そういうことなのね」

 なら問題ないわ、という感じで勝ち誇った笑みを私に向けてくる響さん。た、助かった……。

「そういうお客さま重視なところは変わってないけれど。やっぱりちょっと柔らかくなったわよね、一心ちゃん。ここ半年で」
「え? 最近じゃなくてですか?」

 お父さんと和解した一件から変わったと思ったから、響さんのセリフに驚いて聞き返す。

「あんた一番近くにいて気づいてなかったの?」
「す、すみません」
「まあいいわ。おむすび、余計な虫がつかないようにちゃんと見張っておきなさいよ。こういう男は敷居が低くなるとやっかいだから」

 しっしっと、虫を払うような仕草をして響さんが私に顔を近付ける。

「む、虫……」

 私は響さんにとって、動く虫よけなのだろうか。

「俺を無視して勝手に話を進めるな」

 一心さんは、眉をひそめながらため息をついている。今更なにを言っても無駄だとわかっているのか、手は動かしたままだったが。