「それで、夏川先生と佐藤さんはどういった知り合いなんですか?」

 それまで静かに私たちのやり取りを聞いていた一心さんが、一番気になる質問をする。

「実は、四葉ちゃんとは幼なじみで。保育園から中学校までずっと一緒だったんです。四葉ちゃんが自分の店を持ちたいって言っていたのを思い出して、まごころ通りにあった空きテナントを紹介したんです」
「変わった店主が多いけれど、みんないい人だから絶対気に入るはず、って言ってたよね」
「ちょっと四葉ちゃん! そ、そんなことは言ってないです! ただあの、個性的な人が多いよとは説明したかもしれないですが……」

 しどろもどろになっている夏川先生は、いつものしっかりした『先生』の顔じゃなくなっていた。
 当たり前だけど、『先生』にもプライベートがあって、そこでは年相応の若い女性なのだなと実感する。今までは夏川先生の教師としての一面しか見ていなかったけれど、四葉さんのおかげで夏川先生が素の自分を出してくれた。まごころ通りになじんで気を許してくれたんだって、そのことをすごく光栄にうれしく感じる。ずっと気を張ってがんばってきた夏川先生だから、なおさらまごころ通りでは自然体でいてほしい。

「まあ、個性豊かなのは事実よね。あたしを筆頭に。でも四葉さんなら、この濃いメンツに混ざっても大丈夫な人に思えるけど」
「私もそう思って紹介したんです。若くしてお店を持つってことに、友人として心配する気持ちもあったんですけど、まごころ通りなら大丈夫だろうって」

 四葉さんは製菓学校を卒業したあと、有名なパティスリーで下積みの修行をしていたそうだ。立場も上がって後輩の指導も任せてもらえるようになり、お金も貯まったのでそろそろ独立、と考えていたところの空きテナント発見だったらしい。

「それじゃ、私は店に戻るので。オープンの際は買いに来てくださいね」
「まごころ通りから、開店祝いのお花を贈るわ」
「本当ですか。ありがとうございます」

 オーナー夫妻とミャオちゃんとも、「猫が苦手じゃなければ遊びに来てね」「大好きです。必ず行きます」と約束して、四葉さんは颯爽と去っていった。

 甘い店名とはギャップのある四葉さんの後ろ姿を見送りながら、クローバー色の新しい風がまごころ通りに吹き込むのを感じた。