全員に芋煮汁が行き渡り、私と一心さんも食べようかと目で合図をしたとき。土手の階段を、ほっそりした小柄な女性と体格のいい男性が下りてくるのが見えた。

「一心さん、あれって」

 私の視線の先を確認した一心さんは、一瞬目をみはった。

「親父と、母さんだな。来るなんてひとことも言ってなかったのに……。店はどうしたんだ?」

 一心さんの疑問に、司さんがしれっと答える。

「あじさわも、今日の昼営業は休みだよ。親父さんがそうしたんだ」
「そこまでして来なくても」
「まあまあ。親父さんも心配だったんだよ。たきつけたのは自分だし」

 階段を下りた一心さんのお父さんとお母さんが、にこにこしながら近付いてくる。私が挨拶をすると、「いつも一心を支えてくれてありがとう」とお礼を言われた。うれしくて光栄で、なんだか心がくすぐったい。

「一心、うまくやっているみたいだな」

 芋煮汁を手渡しながら、お父さんと一心さんが会話している。和解する前はあんなにぴりぴりしていた空気も、今はほっこりあたたかい。お父さんは今まで離れていたぶん、息子を構いたくて仕方がないんだろうな。

「親父、わざわざ店を休みにしたんだって? 土曜日はかき入れ時なのに」
「あら、一心。私だって様子を見に行きたいってお父さんにお願いしたんだから、あんまり怒らないでくれる?」
「母さんもか……」

 一心さんは一心さんで、親に世話を焼かれることに慣れていない様子。優しさと不器用さをぎこちなく贈り合っているみたいで、ふたりの関係性がとても微笑ましい。

「本当はもう少し早く来る予定だったんだが、今朝急に庭でとれた栗を届けてくれた人がいてな。これを作っていたら遅くなってしまった」

 お父さんが一心さんに風呂敷包みを差し出す。包まれていた重箱を開けてみると、栗ご飯のおにぎりがきっちり詰められていた。