「なにか持ってきてくださったんですか?」

 たずねると、司さんがかわりに目を細めながら答えてくれた。

「実は叔父さん最近、市が主催している男性料理教室に通うようになったんだ。定年した男性が多いからって知り合いに勧めてもらって」
「へえ、すごいですね!」
「ふん。周りより私のほうが料理経験があるからか、頼りにされて困る」
「教室がない日も料理仲間と食事に出かけるようになったし、最近趣味が広がったんだよな~。それでこんなことも始めちゃって」

 司さんが、叔父さんから紙袋を奪って一心さんに渡す。中を覗いてみると、ラップに包まれた白い麺類が入っていた。

「うどん……?」

 一心さんと顔を見合わせる。

「もしかして、自分で打ったんですか? すごいです」
「うどん打ちなんて粋ですね。うちの食堂でもそこまではしていません」

 私たちが褒めると気をよくしたのか、叔父さんは得意げな表情で教えてくれた。

「仲間のひとりが、うどんやそばを自分で打つ奴でな。たまに付き合ってやってるんだ」
「そんなこといいつつハマっちゃって、これも昨日、叔父さんひとりで打ってたんだぜ」
「司、お前はほんとに余計なことばかり……」

 またお小言が始まりそうだったが、一心さんが間に入って話を逸らす。

「ありがとうございます。味噌味の芋煮汁に合いそうですね。あとで入れてみましょうか」
「味噌仕立てのけんちんうどんみたいになっておいしそうですね! おうどんも食べられるなんてうれしいです。叔父さん、ありがとうございます!」

 そこまで見越してうどんを差し入れてくれたんだろうか。叔父さんもこの会を楽しみにしてくれていたことがうれしい。

「ふ、ふん。役に立つならよかった」

 そっけない言葉とうらはらに、叔父さんの耳は赤くなっていた。