「……」
梨華はこの学校に転校してきて初めてたじろいだ。
間違ったことをしたのなら間違っているよと言ってほしい。不快にさせてしまったのなら謝るから教えてほしい。
そう思った梨華は真っ直ぐに桃香の元へ向かった。
桃香は一瞬目を見開き驚いたが、あまりに梨華が真っ直ぐに目を見据えているので、観念したのか腕を組み直して梨華に向き合った。
「桃香、おはよう。聞きたいことがあるの」
「……ついてきて」
周りの視線を気にしたのか、桃香は梨華を別の場所へと連れ出した。その場所が、これまた嫌な場所だ。
誰もいない、教室から離れた女子トイレ。
梨華はその意味に全く気付いていなかった。ただ言われるがまま冷たい空気で占められたトイレに連れられた。
「……それで、なあに?聞きたいことって」
「私が何か桃香たちを不快にさせてしまったのなら謝りたい。だから、どうして私を避けているのか教えて」
「随分と単刀直入だねえ」
「シンプルに聞きたかったから」
「そう……じゃあ桃香もシンプルに的確に教えてあげる」
そう言って口角を上げながら梨華の体に近付いてきたことすら、梨華は意味を把握できなかった。気が付けば梨華は桃香に突き飛ばされ、勢いよく床にしりもちをついていた。予想だにしない出来事に、梨華は 一瞬にして頭が真っ白になった。
「鬱陶しいの。勉強もスポーツもそこそこなのに、それでいて嫌に目立って、容姿を武器に何でも自分のものにするような梨華を見ていると苛々するの。それに……」
桃香の目は一層鋭くなった。
「桃香の好きな人さえ、手にしようとしたから、ね」
きっとそれが本当の理由で、最初に挙げたことは後付けだろう。
梨華は桃香の恋愛話を耳にしたことは一度もなかった。だから桃香の好きな人はおろか、好きな人がいることさえ初耳だ。
そしてそれが白瀬だということに、さすがの梨華も気付いてしまった。
「私、白瀬とは何もないんだけれど」
「あ、白瀬くんだってちゃんと分かってるんじゃん。二人で帰ったことも、二人でハンバーガー食べたことも、桃香、知ってるんだよ?」
「それは友達だって……」
「あと、さ。誰もいない教室で白瀬くんが梨華に触れてたっていうのも聞いたんだけど、ねえ、何してたの?」