△


最近桃香がよそよそしいな、と思う節が梨華にはあった。
いつからだろう、ここ数日だと思う。けれど桃香と特別何かあったわけでもないので、梨華は不思議と思いながらも普段通りの学校生活を送っていた。
この中学の昼食は給食ではなくお弁当だ。梨華はいつも母に簡単なお弁当を作ってもらっていて、そのお弁当を持って桃香たちと一緒に食べている。
だからいつも通り、4限のチャイムが鳴って鞄からお弁当を取り出し、桃香の席へ向かった。そう、いつも通り。
桃香に近寄り「食べよー」とただ声をかけただけ。しかし桃香は梨華をチラリと横目で見て、
「ごめん、今日桃香たち別のところで食べるから」
そっけなく言い放ち、他の子を連れて教室を出ていってしまった。
梨華は呆気にとられた。じゃあ私も、なんて言えるほど強くはない。
本当は、よそよそしいと感じていた時から単刀直入に訳を聞きたかった。モヤモヤしたままなのは性に合わない。何も思い当たる節がないからこそ、桃香本人から理由を聞きたい。
桃香たちが 立ち去ってしまった今はなす術がない。仕方なく自分の席に戻ろうとしたところを白瀬たちに声をかけられ、男女複数人でお昼を食べることになった。
梨華の人付き合いや性格から考えて、必ず桃香たちとお昼を食べなきゃいけない、というようなタイプでもないからか、梨華が一人で食べようとしてもあまり不思議がられなかったのが救いだった。
もしかしたら、梨華の思い過ごしなのかもしれない。桃香たちもたまたまかもしれない。本当に他で食べなくちゃならない事情でもあったのかもしれない。
そうやって梨華は合理化することで無理矢理自分を納得させた。
ただ、次同じことがあればその時は聞いてしまおう。そう決めて。
そしてその次は、思ったよりもすぐに、予想外の展開と共にやってきた。


 △


翌日、いつものように予鈴10分前に教室に着いた。扉を開けて、おはようと声をかける。もうルーティーンとなっているその流れは、結果としてその後が続くことはなかった。
気まずそうにおはようと返す人、気付かなかったフリをする人。
そして、何故か梨華を嫌な目で見る――桃香たち。
訳が分からない。突然、何が起こったのか。梨華が無意識に何か不快にさせるようなことをしてしまったとしか思えなかった。