「碧李、結局選んだのはこの場所なのね」
「ここしか思いつかなかったからね」
ある晴れた日、西尾碧李は灰田さんと茶野さんと共にあの山を訪れていた。
「それにしても、よく上から許可が下りたなあ。この場所がどんなところか分かってるだろうに」
「だからでしょ。上だって人間なんだから、それくらい汲み取ってくれているのよ。茶野は本当に茶野よねえ」
3人で話していると、例の場所にはあっという間に辿り着けた。
あの日と変わらない景色に碧李はどう思うのか若干怖さもあったが、今日は不思議と心が落ち着いている。
「さて、作業しましょう」
茶野さんが背負ってきたバックパックからシャベルを取り出し、各々が静かに地面を掘り始めた。
たった三人での作業なので、通常より時間は要してしまう。けれど、心地良い風が吹き抜けるから作業も苦ではない。
ある程度の幅と深さの穴を掘り終えると、碧李はその体をそっと寝かせた。
綺麗な顔だった。人間のようだった。
手を取る。冷たさは変わらないけれど、確かにそれは翠の手だ。
三人は静かに土を被せる。そうして元の状態に戻った地面に、三人は手を合わせて願った。
使命を全うし廃棄処分の決まったロボットは、自然に返される。主に緑の少ない場所だ。ロボットは環境に有害な部品を取り除かれた状態で土に埋める。土に返すと花を咲かせるのだ。
萌葱翠はどんな花を咲かせるのだろうか。ここを訪れる登山客が汗と疲労の中、微笑みを浮かべられるような花を咲かせるのだろうか。
萌葱翠のことだ、大きな木を芽吹くかもしれない。
ただ、どんな花を咲かせようとこの山から西尾碧李を見守っているだろう。
「スイちゃんは、最後まで碧李が大好きだったね」
灰田さんが微笑んだ。
「愛を愛で返す。スイちゃんらしかったね」
茶野さんが空を見上げた。
「だから僕は、ここにいるんだ」
碧李は胸にそっと手を当てた。