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国家機密だろうが、AIをなめないでもらいたいですね。研究所から抜け出せるくらいの知能はここにあります。
博士。私は失敗に終わってしまいましたが、黒木梨華から「ありがとう」と言われて嬉しかったんです。黒木梨華を笑顔に出来て嬉しかったんです。
冷たい指先では、あなたを温めることも出来ません。
AIロボットでは、あなたを支えることも出来ません。
けれど、あなたを守ることなら出来ます。
日々研究に沈潜していた博士を、誰よりも近くで見ていました。誰よりも一緒にいました。私が任務を遂行するたび、嬉しそうに出迎えてくれる博士の顔が忘れられません。
「博士、西尾碧李博士!」
最大音量で叫ぶ私の声を、どうか拾ってください。
私なら、どんな些細な声であっても、どんなノイズに紛れたとしても、あなたの声を識別できますから。
「博士!」
あなたとのデータを、私は忘れません。あなたが消去しようとしたら、フリーズしてでも操作させません。あなたの誰かを守りたいという願いを、私だけは忘れる訳にはいきません。
「博士!」
「……翠っ」
冷たい指先では、あなたを温めることも出来ません。
AIロボットでは、あなたを支えることも出来ません。
けれど、あなたを守ることなら出来ます。
だから同じように土砂崩れに巻き込まれて死のうだなんて思わないでください。虚無に飲み込もうとするものからあなたを助けますから。
「翠、翠……何やってんだ馬鹿!」
「博士、博士お怪我はないですか?」
「翠、お前体が……」
土砂崩れを感知し、博士の姿を認識し体を張って落石の犠牲になった私は、やはり失敗作ですか?
「私の使命ですから」
「使命……?」
「博士にとって私の存在意義は、ありましたか」
「……翠、ないとでも思ってるのか!僕がどれだけ翠が大切だったか、どれだけ救われたか。」