白瀬は身長の高い梨華とも釣り合う程の高身長で、クラスのムードメーカーとなる男の子だ。白瀬と梨華が文化祭実行委員なら、とクラスのみんなも楽しみにしてくれている。白瀬はとにかく人気があるのだ。
「黒木!放課後、集まりあるって!」
「提出する紙って、これだけ記入すればいいよね?」
「黒木―!」
委員をきっかけに白瀬が梨華に話しかける機会はぐんと増え、梨華もよく白瀬と話すようになった。白瀬は人懐っこい笑顔で話しかけてくるものだから、梨華も悪い気はしない。寧ろ白瀬の笑顔が可愛くて、梨華も内心白瀬のことを気に入っていた。
「黒木!アメリカの男の子ってどんな感じー?」
「えー、どうだろ。日本の男の子とそんなに変わらないと思うけど。……ああ、でもアメリカの方がダイレクトかも」
「えっ、もっとダイレクトを発音よく言ってみて!」
「direct.」
「おお、アメリカン!」
「なにそれ」
くだらない話も、白瀬と話すのはとても楽しかった。委員の仕事で話すことが多いのも、二人で作業することが多いのも、梨華は嬉しく思っていた。
白瀬は他の人と違って、梨華との間に線を引いているようには感じない。梨華も、白瀬には誰よりも気遣うことなく話せてしまう。
白瀬って、いいな。
「ごめん、俺もう部活に行かなきゃ」
「あ、いいよいいよ。後は私がやっておくから」
「一人でも終わりそう?」
「下校時間までには終わると思う」
「じゃあ、俺部活終わったらここ戻ってくるから一緒に帰ろ!やっぱり黒木に任せるの申し訳ないし、帰りに何かおごる!」
「やった、じゃあそれまでに終わらせておくね」
白瀬と約束を交わし、ひらひらと手を振って部活に送り出した。
放課後の教室に一人。
寂しくも怖くもなかった。ただ、この作業が終われば白瀬と一緒に帰れる。
アメリカにいた時も男の子と一緒に帰ったりご飯を食べに行ったりしたことはしょっちゅうあったから、提案されたときに胸が躍るような気持ちにはならなかったものの、後からジワジワと胸の高鳴りが感じられる。
そこからはいそいそと作業をこなし、日が傾く頃には作業を終わらすことが出来た。部活終了時刻までまだ余裕がある。
やることもないので机に突っ伏して目を瞑る。ああ、眠い。
外からは運動部の掛け声が聞こえる。廊下からは遠く吹奏楽の合奏の音が聞こえる。窓から零れる夕日とそれらが眠りを誘う。