怖かった。もし否定されてしまったら、それこそ翠の存在意義はなくなってしまう。たった一つの支えすら消えてしまったら、翠はここにいる意味がなくなってしまう。
翠はもう人間に限りなく近い存在になっていた。だからこそ、この実験は失敗に終わってしまったのかもしれない。修正可能な人間、なんて作ってはいけないものかもしれない。
限りがあるから、人間なのだ。半永久的なロボットが人間になってはいけない。
だから、翠は失敗作なのかもしれない。
けれど、ロボットとして失敗作であったとしても、碧李の家族として失敗作であってほしくない。翠の唯一の家族にだけは、否定されたくない。
「茶野!」
「あ、灰田。どうした、昼飯ならもう食ったぞ」
「碧李。碧李知らない!?」
「俺たちも今から碧李のところに行こうと……」
灰田さんの表情で状況を把握した茶野ははっとした。
碧李が、いない。
「とりあえず、研究所の隅から隅まで探すわよ!使われていない倉庫もよ!」
「分かった!」
「碧李は、今の碧李は目を離したら何するか分からないのに……!」
茶野さんはすぐさま地下に向かい、灰田さんは最上階に向かった。
残された翠は、充電完了したばかりのエネルギーを駆使して考えた。
碧李は自分が崩壊しそうだと呟いていた。碧李には家族がいないと言っていたが、大切な人はいた。手帳に写真を挟んで持ち歩いていた。研究に息詰まると必ず手帳を開いていた。
その人の顔立ちが翠にそっくりだったので、すぐに大切な人だと分かった。そしてその人が今はもうこの世にいないことも分かってしまった。
前に、こっそり灰田さんに聞いてしまったことがある。写真のことを尋ねてみると、「碧李のフィアンセだった人」と教えられた。
その人は、碧李が何よりも大切にしていた人だった。その人がいたから毎日頑張れたといっても過言ではないし、実際その人の支えが大きかったから研究に没頭することもでき、異例の若さでこの研究に携わることが出来た。
それを機に碧李はプロポーズし、入籍の日取りも決めていた。
「あの時の碧李はムカつくくらい幸せそうで、いつも色ボケした顔で彼女の元へ帰っていたよ。一番生き生きとしてた」
そう灰田さんは懐古していた。