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本末転倒な現実が目の前には広がっていた。
あれから何週間がたっただろうか。施設内でこの事件を知らない人は誰もいない程、大きな問題として知れ渡ってしまった。
翠は施設から出ることを上の人に許されなかった。基本的に碧李の部屋にいるが、ただ碧李が堕ちて堕ちてどうしようもないときだけ、灰田さんや茶野さんに一時的に引き取られていた。
灰田さんも茶野さんも碧李の弱りきった様子を見ていられなかったが、碧李は同じような言葉を繰り返すだけで誰の言葉も耳にしなかった。
「碧李……」
「この世の悪弊を正したい、だなんて馬鹿げていたのかな」
「碧李、それは……」
「崩壊を僕なんかじゃ止められる筈がなかったんだ。もういいんだ。僕の今までの全てが、結果これだ。結局僕は、守れない人間なんだ」
「碧李。あなたの結果はここなの?」
「灰田さん、いいよ。きっと組織も僕を切り捨てるだろうし」
「門外漢は黙ってろ、って言いたいの?ふざけないで」
何度言葉を交わしても、碧李の耳には何も届かない。
実際、組織の上の人間からは『西尾碧李の処分は後日通達する』と言われてしまっている。たとえ処分がなかったとしても、今の碧李には研究を続ける気力は残っていない。
目を離したらどうなってしまうか分からないような、そんな不安定な状態だ。
翠は何も言えなかった。
梨華と桃香の出来事を知り、判断を下してしまったのだ。桃香は『排除すべき』だと。
「スイちゃん、攻撃しちゃったんだね」
「私のことがばれなければ排除するための手段は問わないと、言われていました」
「……そう、だよな」
茶野さんは何も言えなかった。
試験的ケースだったとはいえ、やはり個人を対象にすべきではなかったのか。いや、そもそも排除の必要性の線引きが未だ問題だったのか。