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血を見て思った。
生きているんだって、どうしようもなくこの世界に生きているんだって、再認識というよりも思い知らされた。
こんなことして馬鹿みたい。みんなが馬鹿みたい。生きていること自体馬鹿みたい。
人を好きにならなきゃよかった。目立たなきゃよかった。日本に来なきゃよかった。
私がいなければよかった。
梨華は自然に血が止まるまで、自分で止めようとも隠そうともしなかった。体中の腫れ上がった痛みと、手首の痛みが、心の痛みを麻痺させてくれるのなら良かった。
早く帰ろうと足を速めた。そうでもしないと、今の梨華は道中何をし出すか分からなかった。危ないことを、考えてはいけないことを思ってしまうかもしれない。
結局梨華は、灰かぶりのシンデレラだった。
魔法をかけてくれなければ、プリンセスになることも出来ない。本当の姿は、灰かぶりのシンデレラだ。
その時、
「きゃあああああああ!」
もう背中に遠ざかる先程の空き教室から悲鳴が聞こえた。桃香の声だ。
思わず振り返る。思わず引き返す。
緊迫した空気なのは、桃香の悲鳴声で分かった。何かが起きた。梨華の行動よりも恐ろしいことが。
その教室の扉を開けてしまった後の記憶が、梨華はない。