もうだめだ、引き返せない。自分の気持ちに嘘を吐くのも限界だ。それに、何より真っ直ぐに好意をぶつけてくれたことが嬉しくて、桃香の嫌がらせが今はそこまで怖くない。
「……はい、よろしくお願いします」
梨華の言葉にまたもや悲鳴が上がる。体育館が一体となって興奮に包まれた。
そのままシンデレラは終わり、大歓声の中幕を閉じた。
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「梨華さん!」
幕が閉じた後、一番に駆け寄ってきたのは翠だった。
「萌葱さん!」
「やはり、梨華さんは白瀬くんのことが好きだったのですね」
「うん、誰にも言わなかったけどね。……怖いけど、それでも好きなものを好きだと言いたかった。白瀬はあれだけ真っ直ぐに私に向かい合ってくれているのに、自分に嘘を吐きたくなかったの」
梨華は自然と笑えた。学校で自然と笑えることが殆どなくなっていた梨華にとって、それは久しぶりだった。不思議と桃香のことを気負いせずに、笑えた。
その笑顔を見て翠は、少しほっとした。
「梨華さん、おめでとうございます」
「ありがとう。萌葱さん、そんなに可愛く笑えるんだね」
「可愛い……?」
「うん、心からおめでとうって言ってくれているんだなって、分かるよ。だから私も嬉しいの。ありがとう」
梨華は翠の手を取った。施設の人間以外が翠の手を取ってくれることは初めてだったので、翠は少しドキドキした。相変わらず手は冷たいけれど、心は温かくなった。
だから、だからこそこの後の事件が起こってしまったのだろう。
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クラスでの軽い打ち上げが終わり、帰ろうとしたところを桃香に呼び出されたのは言うまでもない。梨華もそれは想定内だったので、黙って着いていった。
荷物を持って空き教室に移動し、中に入ってすぐに桃香は爆発した。
「……なに、梨華って白瀬くんのこと好きだったの?」
桃香は過去最高に苛々していて、近くの椅子を派手に蹴っ飛ばした。
とりまき達は桃香にビクビクしていたが、梨華は平然と向かい合っている。幸せというものは怖いものなしだ。
「そうだよ、白瀬が好きなの」
「はははっ笑わせてくれるね、ほんと。悉く桃香から奪っていくんだねえ」
「奪う?白瀬は桃香のものじゃないでしょ?」
「は?」
「私はもう自分に嘘吐かない。真っ直ぐに白瀬が伝えてくれたから、私も真っ直ぐに想いを返した。桃香、あなた自分を見失いすぎ」
「お前何言ってんの?ふざけんなよ!白瀬くんの彼女になれていい気になりやがって!」