「梨華って休日は何してるの?」
「買い物にはよく行くよ。まだこっちは慣れないけどね」
「桃香もショッピング好き!どのあたりに行くの?」
「この前は初めて表参道に行ってきたけど、原宿や渋谷とすぐ近くなんだね。凄く気に入った」
この町はアクセスがいいと言っても、表参道で買い物をするような子はいなかった。原宿や渋谷には行く子もいるが、クレープやジャンクフードを食べてチープな雑貨を見て回ることを、梨華には何だか恥ずかしくて言えない気がした。
黒木梨華は大人っぽい。「私たち」とは違う。
それが絶対条件として存在し、その線の手前から話しかけているような感覚だった。
「梨華ってすごく素敵だよね。桃香、梨華と友達になれて良かった!」
「ありがとう。桃香たちのおかげでだいぶ学校にも慣れたよ」
そんな梨華でも、笑い方は周りの子と変わらない。それこそ真っ赤で厚い唇が印象的だが、大きく孤を描いて白い歯を惜しみなく見せるように笑う。
勉強も、中の中。勿論英語はずば抜けて出来るが、その他は見事に平均を狙ったかのような成績だ。スポーツも、アクティビティな割には特別秀でている訳ではなく、女子としてはまあまあ凄いくらいだ。
だから、桃香も周りも梨華を気に入っている。完璧すぎたら、逆に仲良く出来ない。近寄りがたい雰囲気はあっても、完璧じゃない点を見つけたら急に親しみやすくなるのは何故だろうか。
梨華はいつも笑っていた。フランクに、笑っていた。
△
異変に気付いたのはいつなのだろう。
梨華が転校してきて早二ヶ月が経過していた。
女子の中ではグループが勿論存在していて、梨華は桃香たちのグループに所属はしていたが、梨華の性格もあってあまりグループを意識していなかったように思えた。
分け隔てなく接する性格は、女子にだけでなく男子にもだ。少人数でいるより大人数で楽しみたいようなそぶりもあり、梨華の周りにはいつも多くのクラスメートが集まっていた。
梨華の気兼ねない性格、けれど纏う妙な色気。そんなところが男子の恋心をくすぐらない訳がなかった。
「黒木!文化祭実行委員、がんばろーな」
転校生だからクラスに馴染むきっかけとなるように、という先生の配慮を受けて、梨華は一か月後に控える文化祭実行委員を任された。各クラス2人ずつで、サッカー部の白瀬とやることになった。