「白瀬のことが好きだから、梨華が気に入らないのは分かるけどさ。最初はちょっといじわるしてやろうって言ってたのに、これじゃただのいじめだよ」
「でも私たちも黙認していたから、何も言えないよね」
「かといって、桃香に命令され続けても困るし……」
「いっそのこと、みんなで梨華側について桃香グループから外す?」
「そんなこと出来るわけないじゃん」
翠は考えた。
誰が何をしても、今の状況では誰かが必ず傷つく。
今の桃香は誰にも止められない。かと言ってこのまま放っておいたら益々悪化する。桃香をターゲットに仕向けることは、結局梨華にしたことが桃香に同じように降りかかるだけだ。自業自得と言えばそれまでかもしれないが、そんな手段が果たして良いのだろうか。
では、何が正解なのか?どうすれば万事うまくいくのか?
黒木梨華はクラス内の立場だけでなく、自分自身をも壊されつつある。
それを防ぐには、どうしたら最善だろう。
とりまき達の会話は別の会話へと移ったので、翠はその場を静かに立ち去った。


 △


翌日、梨華は憂鬱だった。
どうしてあの時桃香に反撃してしまったのだろうか。もっと大人しくしておけば、桃香からの嫌がらせも悪化しないで済んだかもしれないのに。
桃香に嫌がらせをされる度に白瀬への想いを絶とうと考え、逆に白瀬への想いを再認識してしまう。
白瀬はずっと、梨華と同じ目線で笑いかけてくれる。そんな白瀬に惹かれたのだから、白瀬との繋がりがある限り想いを消すことは難しい。けれど、消さないと自分自身が壊されてしまうと分かっていた。桃香の行動も最近は悪化というより異常だ。
学校までの道のりは憂鬱だ。この道の先には学校があって、一歩踏み込んでしまえばもう引き返すことが出来ない。残酷な程の現実がそこには待っている。
本当は、帰りたい。
「黒木、おはよう!」
「わっ!……し、白瀬。おはよう」
こういう時に限って本人登場だ。だから白瀬に話しかけられたくないんだ。顔を見るだけで想いを募らせてしまうのに、話してしまうと好きでいることをやめられなくなってしまう。