「え?梨華チャンこの程度で満足してるの?ならもっと増やさなくちゃ、ね」
「ねえ、その醜い行動で白瀬に好かれたいって本当に思ってるの?」
「……は?」
「白瀬の見えないところで小さな嫌がらせばかりして、それで気が済むの?それで白瀬を手に入れられるの?ねえ、何がしたいの?」
今、教室には桃香と梨華しかいない。他のメンバーは既に教室に戻ってしまった。
梨華の反撃に、桃香は眉をピクリと動かした。いつもの耳障りな高い声も、急激に低くなった。
「何、自分は白瀬くんに気にいられて調子乗り出したの?そんなにプリンセスって役は大きいんだ?いいねえ、自分が望むことなく素敵な立場に選ばれて。お前、調子乗ってんじゃねえよ!」
桃香が勢いよく梨華を突き飛ばしたものだから、手に持っていたペットボトルも勢いよく転がっていった。ただ梨華はそのあたり頭が良いので、桃香に声をかけられた時点でキャップはしめていたから、中身はぶちまけずに済んだ。
梨華は思いっきりしりもちをついてしまい、その時に先程傷めた足もさらに痛めてしまった。その音で何事かと誰かが戻ってきたが、それがとりまき達だと分かると桃香は更に笑みを深くした。
「ねえ、立場わきまえた方がいいよ。梨華、白瀬くんのこと好きでもないくせにたぶらかして、どっちが何をしたいの?」
「……」
私も白瀬が好きだと、ここではっきりと言えたらどうなるのだろう。
ただ、もう梨華は主張することも否定することも諦めた。今の桃香は怪物なのだから、何を言っても火に油だ。
「今日のところはこれだけにしておいてあげる。桃香は白瀬くんのところにいってお手伝いしてこようっと」
気色悪い、気味悪い、頭おかしい。
桃香の逆上した顔より笑顔の方が圧倒的に怖い。
梨華は足とお尻と、それから心の痛みに耐えられず、誰にも何も言わずにそのまま学校を後にした。
△
翠が作業を終えてトイレへ向かうと、同じクラスの女子がお喋りしている声が耳に入った。
その声の主が誰だかすぐに分かった翠は、気付かれないように静かに耳を澄ませた。
「ねえ、さっきの……」
「うん。桃香、最近おかしいよね」
「いくらなんでもあそこまでする?それでいて笑ってるから、もう怖くて怖くて」
桃香のとりまき達だった。
桃香本人はいないようで、とりまき達はどんどん心の内を吐露し合う。