「『ねえ、シンデレラ?私たちの紅茶はまだかしら?』」
「『ごめんなさい、今持っていきます』」
「『お茶菓子も忘れずにね?昨日と同じマカロンは飽き飽きしちゃうから、代官山で行列を成している今話題のスコーンがいいわ』」
「『お義姉さま、あのお店は今日定休日です』」
「『何ですって?』」
「『代わりに、銀座で人気のバウムクーヘンを用意してあります』」
「『やるじゃない、シンデレラ』」
演技を見ていたクラスメートがどっと笑った。
所々に笑い要素をいれておいたほうが絶対に受けがいいと、紫垣さんが台本をアレンジした結果の台詞である。
継母とシンデレラではこんな会話は到底できないが、義姉とシンデレラなら多少は笑いもいれられるということで、出来た会話だ。
ただ、勿論仲が悪い設定は存在している。
梨華は常身構えていた。さっき桃香に踏まれた足を、わざともう一度踏まれることも想定していた。今度は勢いよく突き飛ばされるかもしれない。
だって、桃香はこの演技が始まる前にとりまき達に何か耳打ちをしていたのだから。それを見逃さなかった梨華は、身構えることしかなす術はなかったのだ。
けれど、とりまき達は結局何も梨華に手を出してこなかった。一度も、だ。
桃香は不満そうに見ていたが、とりまき達は演技を終えるとさっさとトイレへと教室を離れてしまった。
「お疲れ様!今日は演技の合わせはおしまいにして、小道具やセットの作業の方手伝いましょう!」
「お疲れー」
梨華はやっと脱力し、乾いた喉を潤わせようとペットボトルに口をつけた。
なんせシンデレラは台詞が多い。喋った分、喉はカラカラに乾いてしまう。
「梨華チャン」
とりまきもいないので手持無沙汰な桃香は、再び梨華に接触を図った。
「……何。用事なんてないんでしょ?」
「そんなことないよ?さっきのシーンなんだけどさ、本番色々とアドリブ増やしちゃうかもしれないけど、上手く合わせてくれると嬉しいなあ」
「そのアドリブいる?『シンデレラには』必要ないと思うけど。もう十分、他でしてるでしょ」
梨華は疲労と喉の渇きで、うんざりを通り越して苛々していた。反撃しなくなっただけで、元々は行動派だ。疲れた頭では深く考えることも出来ない。久しぶりに、思ったまま口に出してしまう。