二人並んで帰るのはいいものの、共通の話題がまるっきり見つからない。無難にテストの話を振ってみるが、すぐに会話終了。話が全く広がらない。紫垣さんは少し困った。
「……も、萌葱さんは好きなものってある?」
「好きなもの、とは具体的にどういったジャンルのものですか」
「うーん、じゃあ音楽!好きなアーティストとかいないの?」
「好きな音楽はクラシックかオルゴール曲です。心が安らぎます」
「お、大人……!」
今をときめく男性アイドルグループが好きな紫垣さんは、それ以上話を膨らませられなかった。クラシックなんて自分から進んで聞いたことはない。
「あ。そういえば、萌葱さんは劇で裏方担当だっけ?」
「はい、小道具担当です」
「小道具か。まだ細かいところまで決まってないから、決まったら色々と教えるね」
「助かります。……ところで、紫垣さんは今の状況をどう思いますか?」
「え、なんのこと?」
「黒木梨華さんとクラスメートの状況です。継母役を立候補したあの……」
「桃香ちゃん?」
「そうです、桃香さんです。桃香さんと梨華さんの間に確執があるように思えます。紫垣さんはどう思いますか?」
突然の質問に紫垣さんは戸惑った。内容がナイーブなものだったので尚更だ。
萌葱さんもクラスの動向や雰囲気を気にするんだ、と少しだけ吃驚した。
紫垣さんも、二人のことは薄々気付いていた。噂で耳にしたのは、白瀬くん絡みで桃香ちゃんが怒っているということ、それから桃香ちゃんが陰で嫌がらせをしているということ。
実際にその場を見たわけではなかったが、確かに最近の黒木さんは以前より元気がないように見える。進んで一人行動をとることも多いようだし、少し顔がほっそりした気もする。
「……私も詳しくは分からないけど、桃香ちゃんは白瀬くんが好きみたいだから、白瀬くんに気にいられている黒木さんのことが気に食わないんだと思う」
「嫉妬による確執ですか」
「うん、きっと」
「梨華さんは白瀬くんのことが好きなのでしょうか」
萌葱翠の純粋で真っ直ぐな質問に、紫垣さんは黙り込んでしまった。
言われてみれば、そこまで考えたことはなかった。客観的視点と個人的希望だけで述べてしまえば、黒木さんと白瀬くんはお似合いだ。外面も内面も華があって、まさにプリンスとプリンセスにふさわしい。実際、二人の波長は合っているようにも思える。