実は、元々お芝居を演じることよりもお芝居を作ることに興味があった。台本でもいい、監督でもいい、裏方でもいい。役者さんが光を浴びて最高のお話を演じることが出来るために、試行錯誤して舞台を作り上げることに憧れを抱いていた。
勿論、お芝居も大好きだ。演じるだけでなく観ることも好きで、少なくとも1クール3本はドラマをチェックしている。女優の小鳥遊栞菜は雑誌までチェックしてしまうほどには憧れている。
クラスでやる劇だとしても、実質監督として動けることは紫垣さんにとって絶好の機会だった。テストなんて関係ない、考えただけで胸が躍るのだ。
小道具やセットをどうしようか考えながら歩いていると、突然女の人の騒がしい叫び声が耳を貫いた。
「やだ、どうしましょう!」
「……ん?」
近くの家の玄関先で、おばさんがおろおろしている姿が目に入った。紫垣さんはおばさんの目線の先を追うと、ご主人とみられるおじさんが芝生の上で横たわっていた。脚立が横になっている様子から、どうやら足を滑らせて落ちてしまったらしい。
足を打ったのか、おじさんは足首を押さえている。
「た、大変!」
「いたたた……」
ただ、脚立が低かったことと足元が芝生だったことで、幸いにもそこまで重傷ではなさそうだ。
「あなた大丈夫?病院で診てもらいましょう!救急車呼びますから!」
「え?」
紫垣さんはよく分からなかったが、救急車を呼ぶほどなのかと率直に疑問を抱いた。おじさんの様子を見る限り、確かに病院に診てもらった方が良いとは思うが、救急を要するような状態でもなさそうだ。
紫垣さんは眉をひそめるが、何も言えずに少し離れたところから様子を見ることしか出来ない。
おばさんが携帯に手を伸ばしたところで、
「……必要ありません」
同じ制服を着た女の子がおばさんの手を制した。
後ろ姿だけでは誰だか分からない。ソプラノボイスにも聞き覚えがあまりない。おばさんは突然のことにますます目を丸くし、すぐに反論を始めた。