「今日からこのクラスの一員となる黒木梨華さんだ。海外生活が長く日本は久しぶりだということだから、何かあればみんなが助けてやってほしい。……黒木さん、黒木さんからも何か自己紹介をよろしく」
今度こそ、待ってましたと言わんばかりにみんなの双眼が転校生を捉える。
転校生はたじろぐこともためらうこともなく、あっさりと口を開いた。
「初めまして、黒木梨華です。日本の学校に通うのは初めてなので迷惑をかけることもあると思いますが、よろしくお願いします」
落ち着きのあるクリアな声で快活に喋る転校生から目を逸らす人は一人もいなかった。
あれだけ事前から話題性のある転校生だった。そして、その話題性を裏切らない程の異彩を放つ人物だった。
四肢が長く、中学生とは思えない程のスタイルに、少し茶色がかった柔らかい髪を腰あたりまで長く揺らし、片耳にかけている。日本人離れ、とはまさにこのことだと多くのクラスメートが感じただろう。日本人離れどころか、中学生らしからぬ大人っぽい妙な色気にやけメートにドキドキする。
そんなクラスメートをよそに、先生に席を指定されると物おじせず席に向かう。その毅然とした背中がとても姿勢正しくて、みんなの目にやたらカッコよく映った。


「初めまして、黒木さん!」
最初に転校生に声をかけたのは、クラスでも中心的存在となりつつある桃香だった。
桃香は流行りのものが大好きないわゆるミーハーな子で、話題性のある黒木梨華を放っておく筈がなかった。捕まえた獲物は逃がさないとでも言うように、誰よりも早く黒木梨華に近付いた。
「初めまして」
「アメリカから来たってホント?」
「うん、両親の仕事の都合でずっとアメリカ暮らしだったの」
「そうなんだあ。じゃあ英語ペラペラ?凄いね!あっ桃香っていうの、仲良くしようね」
「桃香ね、よろしく。梨華って呼んで」
桃香とその周りの女子は、梨華をえらく気に入った。
桃香だけじゃない。アメリカ育ちだからか、誰とでも分け隔てなくフランクに接する梨華はみんなの目に新鮮に映ったのだ。持ち物も何だかやけにオシャレで、みんなと同じ制服でさえ一人だけ違うものに見えた。
エルエーにいる女の子みたい、なんて誰かが言った。
この町にいるのが勿体ないよね、なんて誰かが言った。
思春期のおバカな男子たちが梨華の周りに群がるが、まるでいつも以上に子供に見えた。梨華の隣に立っても釣り合うような人が、男子に限らずだが殆どいないように思えた。