白瀬が王子様役になるだろうと予測は出来る、そうなると白瀬のお気に入りである梨華がシンデレラ役に指名されることも可能性としては低くない。もしもそうなったら、桃香がどれだけ怒り狂うか。
「……本当は全員から希望を取って、平等に決めたいところなんだけど」
「そ、そうだよお。ドレスなんて、調整可能でしょ?」
「うーん、出来なくはないんだけど。秋に演劇部も公演を控えてるから、出来ればドレスはそのまま使いまわしたいんだよね」
「似たようなドレスは他にもあるんじゃないの?平等に決めようよお」
桃香は焦っていた。きっと梨華の推測を、桃香も考えたのだろう。
このままじゃまずい、シンデレラの座を取られる。
周りの女子に根回ししても、梨華を推薦する人が少なかったとしても、このままでは桃香が選ばれる可能性はない。条件の合う女子がよりによって梨華しかいないなんて、そんなの桃香は許せない。
必死に紫垣さんに取り入るが、中々いい返事ももらえない。
「てかさ、消去法で黒木しかいなくね?」
桃香の声を遮り、声を上げたのは赤堀君だった。
赤堀君は白瀬と仲が良く、梨華が一緒に昼食をとっているメンバーのうちの一人だ。
「黒木なら身長もあるし、スタイル良いし、主役としても華があっていいと思う」
「確かに、黒木が適任だよね」
「……梨華ちゃんがドレス着たら絶対きれいだよね」
普段、桃香たちの目を気にして気まずそうにしか挨拶を交わしてくれない女子たちも、流石に梨華を推薦した。
高身長で四肢も長く、中学生らしからぬスタイルと雰囲気で異彩を放つ梨華は、主役の座に適任すぎた。
「え、いや、私はそんな……」
梨華はたじろぎ、一歩引きさがる。
怖くて桃香は見れなかった。鋭い瞳で梨華を見ているに違いないし、桃香の周りの女子が騒めいているのにも気付いていた。
「黒木で決定でいいんじゃね?」
「あ、私はほら、実行委員だし」
「そうそう、梨華チャンには重荷だよお」
「そこは演劇部の私もフォローするよ。黒木さん、どうかな?」
「みんなはシンデレラ役が黒木で賛成だよな?」
白瀬の質問に、クラスメートは一様に頷く。白瀬がそう言うのなら、流石の桃香も文句は言えない。
「それじゃ、シンデレラ役は黒木梨華に決定します」
教室内に沸き起こる拍手に、梨華はただ困ったように笑うことしか出来なかった。





「MN-601、始動」