「それじゃ、多数決取ります。まずはロミオとジュリエット希望の人―」
白瀬が人数を数え、梨華が黒板にその数を書き出していく。
今、目を開いているのは白瀬と梨華だけ。目が合うのも、白瀬と梨華だけ。
白瀬の耳打ちにくすぐったい思いを抱いて、思わず顔がほころびそうになってしまっても、誰も気付きやしない。
いつ誰が顔を上げてしまうか分からないのに、感情は意志と理性ではどうしようも出来ない。
「……はい、顔上げてー。僅差だったけど、シンデレラに決まりました!」
桃香は白雪姫に手を上げていたが、シンデレラも恋愛モノだからか、満足そうに笑っている。周りの女子に耳打ちしている当たり、シンデレラの座を掴むために根回しでもしているのだろう。桃香にとって、白瀬と恋愛要素を含みながら公然と接近することが出来る、千載一遇のチャンスなのだから。
分かりやすい行動に、思わず梨華は肩をすくめる。
「紫垣!紫垣は確か演劇部だよな?」
「えっあ、うん。そうだよ、演劇部。何か役に立てることがあれば何でも手伝うよ」
「じゃあ早速申し訳ないけど、シンデレラって脇役含めてどんなキャラクターがいるのか、あと衣装とかはどうすればいいのか、教えてくれると助かる」
「おっけー、じゃあ私も前に出るね」
流石は演劇部で、教室いっぱいに通る声ではきはきと白瀬と梨華に指示を仰ぐ。梨華はキャラクターを黒板に書き出し、白瀬はどの衣装なら演劇部から借りられるのかをメモする。
その衣装のサイズによっても、配役は変わってくるようだ。
「シンデレラのドレスと王子様の服は、演劇部にあるもので代用できると思う。ただ、演劇部仕様だからドレスとなると身長がある程度あって細身の子じゃないとサイズが合わないと思う」
「具体的にどれくらい?」
「身長は……少なくとも160センチは欲しいところだね。165センチあれば見栄えが良いと思うけど、高身長すぎると裾が短くて格好悪くなる」
その言葉を聞いて桃香がぎょっとする。
桃香の身長は150そこそこしかなく、体型も特別細いわけでもない。
梨華はまずいと思った。このクラスで160センチ以上の女子は数人しかいない。その中でも165センチ前後で細身の体型は、梨華しかいなかったのだ。