白瀬と並んで歩く今この距離は、一緒にハンバーガーを食べて帰ったときよりも確実に遠い。
好きなものを好きだとはっきり言いたい。けれど傷つけられることに耐え凌ぐことは出来ない。梨華はこうするしかない。白瀬を諦めることしか出来ない。
「本当に何もないから」
未だに心配そうな表情を浮かべる白瀬に念を押して、今は全てを堪えた。
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「やっぱり白瀬は運強いよなー!」
「……」
後日、梨華のクラスは運良く劇の希望が通ってしまった。
白瀬がトップバッターで抽選くじを引いたのだが、いきなり当たりを引き当ててしまったのだ。その運の強さ、今は頗るいらなかった。
「今日は何の劇にするか、時間があれば配役まで決めちゃおう!」
本部から貰った過去の劇の資料を参考にしながら話を進める。
文化祭で劇をやるのなら、王道の話を選んだ方が興味を持ってもらえるし観客の受けもいいらしい。
「やっぱりロミオとジュリエットとか?」
「桃香は白雪姫がベタでいいと思うけどなあ」
「いやいや、白雪姫はないだろー」
「シンデレラとか?」
「いっそ桃太郎で良くね?」
「じゃあ金太郎役立候補するわ!」
「おい、それ物語違うだろ」
真面目な意見からふざけた意見まで、中学生の話し合いは和気藹々と進む。
とりあえず挙がった作品を片っ端から黒板に書き出す。桃太郎やら金太郎は確実に却下として。やはり恋愛要素の強い作品の方が受けもいいのだろうか。
登場人物があまり少ない作品を選んでしまうと、裏方の人数ばかり多くなってしまい、キャスト決めで揉める可能性も高いだろう。そこそこの人数が演じることが出来て、王道ストーリー。それが無難だろう。
「このあたりで多数決取ろうか。」
白瀬が声を上げると、クラスメートは顔を見合わせて頷く。
白瀬はどこまでいってもクラスのまとめ役で、スクールカーストで言えばきっと上位層に位置づけられるだろう。
「じゃあみんな机に伏せて、希望の作品に一回だけ挙手しろよー。あ、おい黄木見てんのばれてるぞ!青沼もどさくさに紛れて寝るなよ?」
女子はクスクスと笑う。一部の男子はふざけているが、何だかんだ白瀬が上手く声をかけてまとめている。