「劇は希望するクラスの中から抽選で決まるから、もしも劇をやりたいのなら、念のため劇のほかにも希望をいくつか決めよう!」
白瀬が手を叩き、皆の注目を集めて意見をとる。
梨華は内心うんざりしていた。
勿論どれをとってもクラスメートと協力して作業するのに変わりはないのだが、もしも劇に決まったとしたら、裏方に回らない限り沢山クラスメートと接触しなければならない。
普段の学校生活で1人行動が通じても、文化祭では通用しない。なんせ梨華は実行委員なのだから。
中学生が劇なんて、きっと進んでやる子は少数だろうと目論んでいたが、どうやら白瀬のとった多数決で
「……じゃあ、大多数が希望したので劇が第一希望、屋台が第二希望で提出します!」
……大多数が劇を希望したらしい。
仕方なく、実行委員会の本部に提出するための用紙に劇希望と記入する。
もしも希望が通ったとしたら、間違いなく主役は白瀬だろう。となると、主役に多く絡む役を桃香が取りに行くに違いない。梨華が主役と少しでも絡む役をやったとしたら、嫌がらせが悪化することは目に見える。そうなったら徹底して裏方に回るしかない。
こうやって、本来ならする必要もないような気を遣うのは梨華は嫌いだ。協調しながらも個々が自由に好きなことをするのが一番だと思っているし、今までそうやってきた。
けれど、これはあんまりだ。
ストレスが溜まる。苛々する。でもはけ口はどこにも用意されていない。
「……黒木!」
「 ……あ、え、何?」
「それ、書けたなら本部行こう!」
「……うん」
こうやってクラスメートの前で白瀬と話すのも今は気が引ける。白瀬と話せて本当は嬉しい筈なのに、桃香の前で白瀬に笑いかけることは出来ない。
委員の仕事上話をしているだけ。そんなことは桃香だって百も承知だが、桃香にとってそんなことは関係ないだろう。
梨華がどうであれ、白瀬が梨華に構っているように見えるのが、何より彼女の怒りを買っているのだから。
教室を出て、ようやく二人きりになった。今は桃香の目を気にすることなく白瀬と話して何も問題はない。
「黒木、最近元気ない?何かあった?」
「……そう見える?そんなことないよ、気にしないで」
けれど、桃香の怒りをこれ以上買う訳にはいかない。白瀬と距離を取らなくちゃ、梨華は確実に壊される。