馬鹿みたい。
梨華がそんな表情で交わすものだから、桃香たちは尚更気に入らない。体育で二人組を作るときはこれ見よがしに梨華が余るように仕向けられたり、教室移動先で梨華が座ろうとした席を邪魔するようにわざと動かしたり、桃香たちのエスカレートしていく行動は嫌がらせと化していた。
桃香たちの奸計に陥るのは癪だ。いじましい考えに染められるのは嫌だ。
けれどいくら梨華であっても、じわじわと侵食されていく感覚に気付いていた。
日を重ねるごとに挨拶を返してくれる人の数も少なくなり、
「……」
梨華も、自分から言葉を発するのをやめるようになった。
休み時間は適当に本でも読んでいればいい。授業は周りを気にしなくていい。昼休みは大人数の輪の隅で黙々と食べていればいい。放課後は真っ直ぐ家に帰ればいい。
ただ、肝心なことが梨華を悩ませた。
梨華は文化祭実行委員に選ばれているのだ。
白瀬と一緒に委員をするのも気持ちは複雑で、みんなのまとめ役をしなくてはならないのも気が滅入る。その「みんな」から弾き出されそうになっている人間がまとめ役だなんて滑稽だ。
今日のロングホームルームは文化祭の出し物決定だ。先生は実行委員に任せると言って、職員室に戻っていってしまった。
「……白瀬。私が黒板に書き出していくから、白瀬が仕切って」
梨華は先手を打っておく。どうせ私が仕切ったところで良い空気にはならない、と梨華は悟っていたのだ。
最近では、女子独特の嫌な空気を梨華もすぐ察するようになってしまった。嫌でも分かってしまうのだ。どう出ると駄目なのか、どうすれば安全なのか。
人の目なんて気にしない人生を歩んできた梨華にとって、これほど周りの様子を伺って過ごすことは今まで一度もなかったし、だからこそとてもストレスだった。
「りょーかい!じゃ、みんなどんどん意見出してー!」
白瀬は上手く皆を促し、意見を求める。それを梨華はただ黙って黒板に羅列していく。
お化け屋敷、屋台、飲食販売、劇、展示。
正直、どれをとったとしても当日まで苦労が尽きないだろう。当たり前だ。実行委員があまりクラスに関わらなくてもいい道はある筈がない。
白瀬は梨華たちの小さな波紋に気付いているのだろうか。