・
・【教室に戻ると】
・
僕とノエルちゃんが教室に戻ってくるなり、紗英が近付いてきて、こう言った。
「言いたいことは分かるが、全員が全員そうではない! 何故なら俺には俺という個性があるから!」
力強くそう言い放ちつつ、ノエルちゃんのことを若干睨んでいる様に見えた紗英に、僕は少し背筋が凍った。
いやでも確かにその紗英の言っていることが僕はよく分かる。
紗英はそういう”型でハメていく言動”というモノが好きではないから。
それに対してノエルちゃんは余裕そうに、前髪をかきあげながら、こう言った。
「まあまあ、のちのち分かりますよっ」
と鼻をツーンと上げ、やけに自信あり気で一体何なんだろうと僕は思ってしまった。
仲良く個性を尊重すればいいのに。
ノエルちゃんはそう言うと、さっさと自分の席に戻って座った。
僕はなんだかモヤモヤしてしまった。
本当にノエルちゃんのことを助けてしまって良かったのだろうか、と、さえ、思ってしまった。
そのタイミングでチャイムが鳴った。
「じゃっ、また四限目前の休みに」
そう僕には笑顔で言った紗英。
そして僕も紗英も自分の席に着いた。
しかし三限目の授業はなかなか頭に入ってこなかった。
ずっとモヤモヤしていたから。
四限目前の休み時間に僕はすぐに紗英の席へ行った。
「ん? そんなに急いで何? 何か用?」
その時、僕は何も言葉を決めていないのに、ただただ紗英の近くに行ってしまったことに気付いた。
何も言葉が出ずに、うんうん唸っていると、紗英は立ち上がって、僕の肩を叩きながら、
「大丈夫、大丈夫、昔に戻っただけ。またいちからノエルに説明していけばいいだけだからさっ」
と、ちょっと困った笑顔を浮かべながらそう言った。
昔、か。
そうだ、昔は皆、紗英のこの感じにまだ慣れていなくて、ちょっと除け者扱いみたいにしていた人もいたなぁ。
でも紗英は紗英で。ずっと紗英は紗英で。
結果、この学校の人全員、紗英のこの感じに慣れたのだ。
一人称が”俺”のことだって、もう注意する先生すらいない。
そうか、だからノエルちゃんも慣れればいいんだ、紗英に。
早く慣れてくれるといいな。
四限目の授業も終わり、給食。
「ちょっとぉ! そこの君ぃ! もっとアタシのご飯! もっと盛ってよぉ!」
ノエルちゃんがまた自分の給食の盛りに注文をつけている。
言われた給食当番のマサルは、困りながら、
「余ったらあとで自分で盛ればいいだろ!」
と言っている。
それに対してノエルちゃんは、
「どうせ余るんだから今から多めに入れてよ! ケチぃっ!」
と引かない。
本当にノエルちゃんは引かないなぁ。
まるでそう決めているみたいだ。
それくらい頑固に引かないような気がする。
僕は給食当番をしている紗英の分も配膳するため、二回列に並ぶと、その二回目で、ノエルちゃんが自分の席に座りながら、
「あっ! 給食二個分食べようとしてる! ズルい! ズルい!」
と言ってきたので、ここは冷静に説明しようと、
「これは今、給食当番をしている紗英の分だよ」
と、出来る限り落ち着いた声で言うと、
「うぅ~! それくらい知ってる!」
と言って、自分の席に既に置いている給食を荒くどかしてから、机に突っ伏した。
給食の時、机は前・左右をみんなの机と合わせているので、配膳された給食が落ちることはないけども、他の人の給食と当たって、少しこぼれそうになっていた。
何か怖いなぁ、と思っていると、スープの配膳を担当していた紗英が、
「二回目の配膳だと分かるって、ノエル、誠一のことをよく見ているんじゃないか?」
と小声で言ってきたので、何でだろうと思った。
う~ん、いくら考えても理由は分からない。
そんなことより、紗英の配膳を済まして、自分の席について、給食当番も全て終わって『いただきます』と、なった。
近くのクラスメイトと、やけにデカくと妙に赤色のバッタの話をしながらご飯を食べていると、何だか視線を感じて、チラっとそっちを見ると、僕からの目線をそらすノエルちゃんの姿があった。
確かに紗英が言っていた通り、ノエルちゃんが僕のことを見ているような、何でだろう……と思う暇も無く、隣の席のタクマくんが、
「あのバッタ、多分山の主だぜ?」
と言ってきて、
「さすがに山の主、バッタじゃなくて熊クラスのデカさでしょ」
とツッコんだけども、さらにタクマくんは、
「だってあの山、やけにバッタ多いじゃん、バッタ製造工場でもあればあれだけどさ」
という怒涛の謎のボケ発言を喰らってしまい、考える隙が無かった。
ノエルちゃんがやけに僕のことを見ていたことを思い出したのは、帰りのホームルームが終わった直後だった。
一応またスベリヒユの採取でもしようかなと思った時に、思い出した。
そうだ、このスベリヒユってノエルちゃんのためだ、と思った時に。
そのタイミングで誰かに後ろから話し掛けられた。
「あの、誠一、ちょっといいかな?」
紗英よりは高い声で、少し可愛らしいこの声は。
振り返ると、そこにはノエルちゃんが立っていた。
「またスベリヒユの料理、作ってほしいんだけどもっ」
何だか妙にモジモジしながら言っていたことが印象的だった。
二限目と三限目の間の長休みでは、全然そんな感じじゃなかったのに。
でもまあ良かったは良かった。
だってスベリヒユ採取したほうがいいか分からなかったから。
「じゃあやっぱり今後、ずっとスベリヒユの料理作ったほうがいいかな?」
「うん、お願いっ」
とちょっとした会話をしたタイミングで、座っている僕の頭に何か置かれて、その真上から声がした。
「じゃ! 俺も手伝うから!」
紗英だ。
紗英が僕の頭の上に、アゴを置いているらしい。
逆にというかなんというか、体勢つらくないかな。
僕は頭をクイクイ動かして、紗英の頭をどかしたら、その場に立ち上がり、紗英やノエルちゃんのほうをそれぞれ目配せしながら、僕は
「紗英も、ノエルちゃんが食べるスベリヒユを採取しているんだ。だからノエルちゃんも紗英と仲良くしてほしいんだ」
と言うと、紗英がちょっと嫌な顔をしながら、
「いや別にそんなこと言わなくてもいいし! 俺は誠一と一緒にいたいだけだし!」
と言うと、ノエルちゃんが、
「やっぱり好きなんじゃなぁ~い」
とまたクスクス笑いながら、ツインテールを揺らしながら、そう言った。
さっきのモジモジとは打って変わって、また性格が悪い感じだ。
それでまたカチンときたみたいで、紗英は
「好きは好きだよ! 誠一のこと好きだから一緒にいるんだよ! だけどな! 付き合いたいとかそういうことじゃないんだよ!」
と声を張り上げながら言うと、ノエルちゃんはそんなことありえないでしょ、みたいな顔をしながら、
「恋としても好きなくせにさぁ!」
と言って笑った。
何かこのまま二人で言い合いをさせたら良くないと思って、僕はランドセルに机の中の道具を詰めて、すぐさま立ち上がり、
「じゃ! じゃあ紗英! またスベリヒユ採取に行こう!」
と紗英の腕を引っ張りながら、歩き出した。
すると、紗英もそれに合わせて、僕と一緒に教室の外に出た。
教室の外に出るなり、紗英が
「何であんなムカつくことばかり言うんだろ! 本当に嫌になる!」
と本気で怒っていた。
いやまあ紗英の気持ちはよく分かるけども。
ノエルちゃんも恩とか感じて、仲良くしてくれればいいのになぁ。
・【教室に戻ると】
・
僕とノエルちゃんが教室に戻ってくるなり、紗英が近付いてきて、こう言った。
「言いたいことは分かるが、全員が全員そうではない! 何故なら俺には俺という個性があるから!」
力強くそう言い放ちつつ、ノエルちゃんのことを若干睨んでいる様に見えた紗英に、僕は少し背筋が凍った。
いやでも確かにその紗英の言っていることが僕はよく分かる。
紗英はそういう”型でハメていく言動”というモノが好きではないから。
それに対してノエルちゃんは余裕そうに、前髪をかきあげながら、こう言った。
「まあまあ、のちのち分かりますよっ」
と鼻をツーンと上げ、やけに自信あり気で一体何なんだろうと僕は思ってしまった。
仲良く個性を尊重すればいいのに。
ノエルちゃんはそう言うと、さっさと自分の席に戻って座った。
僕はなんだかモヤモヤしてしまった。
本当にノエルちゃんのことを助けてしまって良かったのだろうか、と、さえ、思ってしまった。
そのタイミングでチャイムが鳴った。
「じゃっ、また四限目前の休みに」
そう僕には笑顔で言った紗英。
そして僕も紗英も自分の席に着いた。
しかし三限目の授業はなかなか頭に入ってこなかった。
ずっとモヤモヤしていたから。
四限目前の休み時間に僕はすぐに紗英の席へ行った。
「ん? そんなに急いで何? 何か用?」
その時、僕は何も言葉を決めていないのに、ただただ紗英の近くに行ってしまったことに気付いた。
何も言葉が出ずに、うんうん唸っていると、紗英は立ち上がって、僕の肩を叩きながら、
「大丈夫、大丈夫、昔に戻っただけ。またいちからノエルに説明していけばいいだけだからさっ」
と、ちょっと困った笑顔を浮かべながらそう言った。
昔、か。
そうだ、昔は皆、紗英のこの感じにまだ慣れていなくて、ちょっと除け者扱いみたいにしていた人もいたなぁ。
でも紗英は紗英で。ずっと紗英は紗英で。
結果、この学校の人全員、紗英のこの感じに慣れたのだ。
一人称が”俺”のことだって、もう注意する先生すらいない。
そうか、だからノエルちゃんも慣れればいいんだ、紗英に。
早く慣れてくれるといいな。
四限目の授業も終わり、給食。
「ちょっとぉ! そこの君ぃ! もっとアタシのご飯! もっと盛ってよぉ!」
ノエルちゃんがまた自分の給食の盛りに注文をつけている。
言われた給食当番のマサルは、困りながら、
「余ったらあとで自分で盛ればいいだろ!」
と言っている。
それに対してノエルちゃんは、
「どうせ余るんだから今から多めに入れてよ! ケチぃっ!」
と引かない。
本当にノエルちゃんは引かないなぁ。
まるでそう決めているみたいだ。
それくらい頑固に引かないような気がする。
僕は給食当番をしている紗英の分も配膳するため、二回列に並ぶと、その二回目で、ノエルちゃんが自分の席に座りながら、
「あっ! 給食二個分食べようとしてる! ズルい! ズルい!」
と言ってきたので、ここは冷静に説明しようと、
「これは今、給食当番をしている紗英の分だよ」
と、出来る限り落ち着いた声で言うと、
「うぅ~! それくらい知ってる!」
と言って、自分の席に既に置いている給食を荒くどかしてから、机に突っ伏した。
給食の時、机は前・左右をみんなの机と合わせているので、配膳された給食が落ちることはないけども、他の人の給食と当たって、少しこぼれそうになっていた。
何か怖いなぁ、と思っていると、スープの配膳を担当していた紗英が、
「二回目の配膳だと分かるって、ノエル、誠一のことをよく見ているんじゃないか?」
と小声で言ってきたので、何でだろうと思った。
う~ん、いくら考えても理由は分からない。
そんなことより、紗英の配膳を済まして、自分の席について、給食当番も全て終わって『いただきます』と、なった。
近くのクラスメイトと、やけにデカくと妙に赤色のバッタの話をしながらご飯を食べていると、何だか視線を感じて、チラっとそっちを見ると、僕からの目線をそらすノエルちゃんの姿があった。
確かに紗英が言っていた通り、ノエルちゃんが僕のことを見ているような、何でだろう……と思う暇も無く、隣の席のタクマくんが、
「あのバッタ、多分山の主だぜ?」
と言ってきて、
「さすがに山の主、バッタじゃなくて熊クラスのデカさでしょ」
とツッコんだけども、さらにタクマくんは、
「だってあの山、やけにバッタ多いじゃん、バッタ製造工場でもあればあれだけどさ」
という怒涛の謎のボケ発言を喰らってしまい、考える隙が無かった。
ノエルちゃんがやけに僕のことを見ていたことを思い出したのは、帰りのホームルームが終わった直後だった。
一応またスベリヒユの採取でもしようかなと思った時に、思い出した。
そうだ、このスベリヒユってノエルちゃんのためだ、と思った時に。
そのタイミングで誰かに後ろから話し掛けられた。
「あの、誠一、ちょっといいかな?」
紗英よりは高い声で、少し可愛らしいこの声は。
振り返ると、そこにはノエルちゃんが立っていた。
「またスベリヒユの料理、作ってほしいんだけどもっ」
何だか妙にモジモジしながら言っていたことが印象的だった。
二限目と三限目の間の長休みでは、全然そんな感じじゃなかったのに。
でもまあ良かったは良かった。
だってスベリヒユ採取したほうがいいか分からなかったから。
「じゃあやっぱり今後、ずっとスベリヒユの料理作ったほうがいいかな?」
「うん、お願いっ」
とちょっとした会話をしたタイミングで、座っている僕の頭に何か置かれて、その真上から声がした。
「じゃ! 俺も手伝うから!」
紗英だ。
紗英が僕の頭の上に、アゴを置いているらしい。
逆にというかなんというか、体勢つらくないかな。
僕は頭をクイクイ動かして、紗英の頭をどかしたら、その場に立ち上がり、紗英やノエルちゃんのほうをそれぞれ目配せしながら、僕は
「紗英も、ノエルちゃんが食べるスベリヒユを採取しているんだ。だからノエルちゃんも紗英と仲良くしてほしいんだ」
と言うと、紗英がちょっと嫌な顔をしながら、
「いや別にそんなこと言わなくてもいいし! 俺は誠一と一緒にいたいだけだし!」
と言うと、ノエルちゃんが、
「やっぱり好きなんじゃなぁ~い」
とまたクスクス笑いながら、ツインテールを揺らしながら、そう言った。
さっきのモジモジとは打って変わって、また性格が悪い感じだ。
それでまたカチンときたみたいで、紗英は
「好きは好きだよ! 誠一のこと好きだから一緒にいるんだよ! だけどな! 付き合いたいとかそういうことじゃないんだよ!」
と声を張り上げながら言うと、ノエルちゃんはそんなことありえないでしょ、みたいな顔をしながら、
「恋としても好きなくせにさぁ!」
と言って笑った。
何かこのまま二人で言い合いをさせたら良くないと思って、僕はランドセルに机の中の道具を詰めて、すぐさま立ち上がり、
「じゃ! じゃあ紗英! またスベリヒユ採取に行こう!」
と紗英の腕を引っ張りながら、歩き出した。
すると、紗英もそれに合わせて、僕と一緒に教室の外に出た。
教室の外に出るなり、紗英が
「何であんなムカつくことばかり言うんだろ! 本当に嫌になる!」
と本気で怒っていた。
いやまあ紗英の気持ちはよく分かるけども。
ノエルちゃんも恩とか感じて、仲良くしてくれればいいのになぁ。