・【中華風粥】


「わざわざありがとうねぇ」
 昨日よりもまた一段と元気が無くなっているツバツさん。
 この流れに待ったを掛けなきゃっ。
「今日はツバツさんに、俺たちが考えたメニューを食べて頂こうと思っています」
「嬉しいねぇ」
「それでは今から作りますので、少々お待ち下さい」
 そして私と琢磨は二人で厨房に入っていった。
 どっちか片方はお客様側に残っていたほうがいいとも思ったけども、あやかしさんたちは一つ注文すると、その一つの注文でまったりする傾向があるので、あまり注文やすぐに会計とはならない。
 だから二人で調理することにした。
 私たちが作る料理、それは【梅味の中華風粥】だ。
 まずは具である、シメジを食べやすい大きさにするため、手でほぐす。
 琢磨がその作業をしている間に私は鍋に、水と塩とお酒、そしてささみを入れて火にかける。
 ささみのあくをとりつつ煮ていく。
 その隙間を縫って、私は梅干しを包丁で叩いて崩していく。
 火が通ったら取り出し、粗熱を氷水でとったら、また手で食べやすい大きさにさいていく。
 ちなみにこの素手で何かやるのは、琢磨の仕事だ。
 琢磨はまだ包丁をうまく使えないので、手の役目を担っている。
 私はその包丁を使えないことへの嫌味を少し言いたくて、いつもの逆で私が嫌味を言いたくて、一言言うことにした。
「琢磨は手が得意だね」
「人間だからな」
「でも道具がまだ使えないみたいだ、人間なのにっ」
「うん、だから包丁を扱えるオミソのこと尊敬しているよ」
 そう言って微笑んだ琢磨。
 いやそういうのじゃねぇよ!
 もっと腹立てたり、嫌味返しをするんだよ!
 何か私が小物みたいになるじゃん! 変な返しするなっ!
 あぁ、失敗、失敗、嫌味は失敗だよ、全く。
 急にそういうのマジやめてほしい。
 空気読めないわぁ。
 何か……ちょっと、変な感じなったわ、いやいやそんなことより、調理、調理っ。
 さて、ささみを煮た鍋に中華だしを入れて、炊いた白米とシメジを加えて混ぜ、シメジがしんなりするまで弱火で煮る。
 完成間近に梅干しを入れて、酸味が熱で飛びすぎないようにする。
 そして最後に器に盛り付け、ささみを乗せ、ごま油をかけ、最後にクコの実を乗せて完成。
 【梅味の中華風粥】完成だ。
 まず食欲をそそるごま油の香り。
 そこに唾液の分泌を促す梅の酸味、さらに梅には疲労回復効果がある。
 クコの実の滋養強壮は勿論。
 油の少ないささみは食べやすく、されど栄養はしっかり摂取。
 シメジで食物繊維をとって、旨味にもなる。
 少々具だくさんかもしれないが、しっかり食べてほしいという思いを込めて。
 私と琢磨はツバツさんにこの梅味の中華風粥を差し出した。
「ほほう、おいしそうだねぇ、早速頂こうかねぇ」
 ツバツさんはレンゲで粥を持ち、フーフーした。
 すると、ごま油と中華の良い香りの湯気が私のほうまでやって来た。
 香りは完璧だ。
 あとは味。
 ツバツさんが一口、口の中に入れて、
「これはおいしいですねぇ、鼻に抜ける中華の香りに梅干しの塩気も計算された塩加減、シメジの旨味に、クコの実のアクセント。またクコの実の甘さと粥の塩気を、梅干しの酸味がうまく繋いで、味のハーモニーを奏でていますねぇ」
「「やったぁっ!」」
 と叫んで、顔を見合わせる私と琢磨。
 ついユニゾンしてしまった。
 でもこれはしょうがない。
 だってすごく嬉しいんだもん。
「この温かさも嬉しいですねぇ、お腹が温まると心も温まりますからねぇ」
 そして、ツバツさんは私たちの作った中華風粥を完食してくれた。
「ありがとうございました。是非、この中華風粥もメニューに追加してくれると嬉しいですねぇ」
 そうツバツさんが言って下さったことが私たちへの最高のご褒美となった。
 メニューに追加、とは……これ以上無い喜びだ。
 その言葉を聞いていた厨房の田中さんがやって来て、こう言った。
「うん、食材的にも手に入りやすいし、渡辺さんが漬けている梅干しは余りに余りまくってるし、この料理はメニューに加えても大丈夫だと思うよ」
「「やったぁっ!」」
 また同じように叫んで、また同じように顔を見合わせてしまった私と琢磨。
 というか私と琢磨の語彙力よ。
 咄嗟に喜びを表すパターン、一個じゃん。
 ちなみに渡辺さんとは私のパパもしくはママのことだ。
 私の両親は毎年食べるよりも多くの梅干しを漬けるので、徐々に溜まっていっているのだ。
 そしてツバツさんは満足して帰って行った。
 私と琢磨は大のつく満足だ。
 もしかしたら私たちはもっとできるかもしれない。
 そんな自信を手に入れて、今日も元気にカフェを切り盛りした。
 その後。
 ツバツさんからお礼にミツバツツジの押し花を使った栞をもらった。
 あまりにも可愛い栞だったので、今はカフェに置いてあるレシピの本に挟んである。
 私の大のお気に入りの品になった。