(あ……れ……?)

ハンバーグを割ったことで、焦げ目がついた状態では分からなかった異変に気がつく。

ハンバーグの中にちらほらとオレンジ色の物体が見えたのだ。

あれだけ大騒ぎしたら次こそはにんじん抜きのお弁当が食べられると思ったのにそうは問屋が卸さない。

なんと、ハンバーグにはにんじんの角切りが入っていたのだ。

(お兄ちゃん……!!)

なんでにんじんを入れるかなあっ!?

家に帰ったら絶対に文句を言ってやると心に決め、ひとまずにんじん入りのハンバーグは後回しにして、副菜のたまご焼きに狙いを定める。

白身と黄身の混ざった淡い黄色はいつ見ても美しい焼き色を纏っている。この素敵な焼き色はテレビで見たたまご焼き専門店に引けを取らない出来栄えだと思う。このまま無職でいるつもりなら、兄に働くように勧めてみるのもいいかもしれない。

(あ……)

たまご焼きをひとくち噛んだ瞬間に、いつもの味との違いに驚く。

(なによ……。甘いやつも作れるんじゃん……)

嫌いだと言ったにんじんを入れる代わりにたまご焼きを甘くする。

どういう計算が行われたのかは分からないが、兄の中では収支が取れたらしい。

(仕方ない……)

たまご焼きを食べ終えた私は観念して、意を決して例のハンバーグを口の中に入れた。

ひとくち噛んだ瞬間に肉汁がジュワと溢れ出していく。兄の作るハンバーグは冷めても美味しい。

……本当は分かっているんだ。

ただ単ににんじんを食べさせたいだけなら、原形がなくなるようにしてすりおろしてタネに加えてしまえばいい。

それをあえてしないのは私の好き嫌いを直すという確固たる信念があるからだ。

(くっそう……。今日もまんまと食べてしまった……)

兄の術中に嵌ってしまったようでなんだか悔しい。

「ごちそうさまでした」

お弁当を完食すると空になったお弁当箱を片付けて通学バッグの中にしまった。

残った昼休みの時間は午後の英単語のテストに向けて参考書を開いて過ごす。

そして、家に帰ると宣言どおり、録画してあった深夜アニメのデータをすべて消したのであった。