(お腹空いた~)
午前中の授業が終わり、待ちに待ったお昼休みがやってくる。クラスメイトが三々五々、教室の中に散っていく中、私はひとりで自分の席に残っていた。
兄の言う通り、友達はいない。
知り合いがほとんどいない中、入学式でのスタートダッシュに後れをとった私はクラスの中でいつも浮いていた。
人見知りの私がクラスメイト達と打ち解けられるようになる日が来るのだろうか。
……まあ。
それはそれとて、今日もお腹が空いた。
(今日のおかずは何かなー?)
私は通学バッグからお弁当箱を取り出すと、固結びになっているハンカチの結び目を解いていく。
ハンカチを広げて現れたライムグリーンのランチボックスは入学式の次の日に兄と一緒にデパートへ買いに行ったものだ。
形は楕円で、容量は大きめ。蓋の部分にラインストーンで猫が模ってあるところが気に入っている。
弁当箱本体は二段になっていて。下の段にはご飯、上の段にはおかずが詰められている。
弁当箱を包んでいたハンカチをランチョンマット代わりに机に敷く。二段に分けたお弁当箱を横に並べ、お箸を手前にセットすると準備は万端だ。
私はお弁当箱の前で手を合わせた。
「いただきます」
お決まりの挨拶を済ますと、蓋を開けていく。
……実は、この瞬間が一番楽しみだったりする。
言動こそいい加減だが、兄はお弁当作りについては一切の手を抜かない。その証拠に兄の作るお弁当には冷凍食品や出来合いのお惣菜の類は入っていない。
メニューに関しても工夫が凝らしてあって、私を飽きさせないようにしてくれる。
兄は決してお弁当の中身を私に見せない。それが偶然なのか、わざとなのかはわからない。
しかし、毎日何が入っているんだろうと私をワクワクさせてくれるのは間違いない。
(やったっ!!今日ハンバーグだ!!)
上段の蓋を開ければ今日のメインのおかずは私の好きなハンバーグで、内心ガッツポーズする。
ヨシヨシとほくそ笑みながら今度は下段の蓋を開けていく。ご飯の詰まっている下段は一面海苔が敷き詰められていた。今日はのり弁だ。
メインディッシュは後に取っておく主義の私は、早速のり弁へと箸をのばした。
海苔は箸で切れるほど柔らかい。サッと醤油にくぐらせた海苔はご飯とベストマッチだ。ご飯とご飯の間におかかが挟んであるのがまた嬉しい。挟んであるのとないのとでは、雲泥の差がある。
おかかとのりとご飯の組み合わせなんて無限にお腹に入ってしまう。
……と、いけないいけない。
抗いがたいのり弁の魔力のせいで、大切なおかずの存在を忘れるところだった。
私は一旦のり弁を意識の端に追いやると、今度はハンバーグを一口大の大きさに割った。