「まさか、高校に入学して一か月も経つのにタピオカを一緒に飲みに行く友達もいないのか?兄ちゃんが友達の作り方教えてやろうか?まずはネットでバズると評判のダンスを踊るだろ?」
持ってろとスマホを渡され、腰に手を当ててクイクイとお尻を左右に振る珍妙なダンスをなぜだか録画させられる。
「こうやってSNSに投稿すれば、あっという間に人気者間違いなしだぞ?」
「バカにしてるの?」
自信満々で画面を見せてくる兄の手からスマホを奪い取り、即座に床に叩きつける。
「あー!!何するんだよ!!」
「うるさい!!無職のくせにリア充アピールなんてするんじゃない!!」
「ひどいっ!!無職にだってSNSをする権利はあるんだぞー!!」
SNSの権利を主張する前にやることがあるだろう。就職とか、就職とか、就職とか。
「とにかくにんじんを入れるのはやめて!!次やったら、録画してある深夜アニメのデータを全部消去してやるから」
「こわいっ!!人の弱みを的確についてくる妹の思考回路が怖いっ!!」
ひええと白目を剥いてガクガク震える兄の顔面目掛けて、やつ当たり気味に弁当箱を投げつける。
「いい?絶対だからね!!」
見事な反射神経で顔面キャッチを回避した兄は、弁当箱を左右に振るとニンマリと頬を緩ませた。
「おっ。なーんだ。文句言いつつ完食してんじゃん。偉い偉い」
「残したらもったいないから、食べただけ!!」
私はそう言い捨てるとドスドスと大きな音を踏み鳴らしながら階段を下りていった。
(あー。ムカつく)
ムカつく。ムカつく。
何がムカつくって?
お兄ちゃんの全部がムカつく。
兄の名前は猪倉穂純、二十六歳。独身。
職業、なし。
二年前、勤め先のパワハラ上司に正義の右ストレートをお見舞いしたきり定職に就くことなく、目下実家の一室で悠々自適の生活を送る世捨て人。
……なぜか、嬉々として毎朝妹のお弁当を作る変人だ。