「ごちそうさま。美味しかった。明日もよろしく」
兄は一瞬面食らったようにお弁当箱を見つめていたが、私の行動を理解すると同時に破顔した。
「明日は、ピーマンの肉詰めだからな~」
ひゅうと冷やかすように口笛を鳴らすと、兄は再び牌に向き直っていく。
「ちょっと!!ピーマンは嫌いだって言ってるでしょ!!」
なんで隙あらばピーマンを入れようとするかなあ!!
ピーマンは私が一番苦手な食材だった。見るのも嫌なら食べるのも嫌な天敵である。
しかし、甘んじて受け入れるしかない。幼き日にかわした約束を覚えていたのは兄の方だったのだから。
あー恥ずかしい。
こんな無職でふざけた男が兄だなんて恥ずかしい。
でも、この人が自分の兄で良かったとも思う。
「杉野くん!!こんな人達と一緒にいたら、杉野くんも将来無職になるよ!!ほら、行こう!!」
せめて杉野くんだけでも真っ当な大人になって欲しいと、彼の腕を取り雀荘から出るように促す。
「じゃ、穂純さん。俺、これからバイトがあるんで」
「って、待てこら杉野!!勝ち逃げは許さんぞ!!」
お兄ちゃんが投げつけてくる台詞があまりに小者過ぎて、杉野くんと顔を合わせてふたりで笑ってしまう。
明日も明後日も。
雨が降ろうと雪が降ろうと。
兄は私にお弁当を作るだろう。
これは私と兄のお弁当を巡る戦いの記録である。
高校を卒業するまで、お弁当を作ってくれなきゃ承知しないんだからね。
頑張ってね、お兄ちゃん。
おしまい