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「だから言ったじゃないっすか。コソコソ裏で立ち回るのって女なら絶対嫌がるって」
「うるさい、杉野」
「あ、それロンです。タンヤオ、平和、ドラ2、満貫八千点です」
「くっそー!!負けた!!」
杉野くんから上がられると、兄は絶叫して雀卓に突っ伏した。
つぶれかけの雀荘は見た目に反して、意外とお客さんがいた。
平日の夕方だというのに、八つある雀卓の内半分ほどが埋まっており、皆和気あいあいといった感じで麻雀を打っている。
平日の昼間からこんなに遊び惚けている人がいるなんて、日本の未来はどうなってしまうのだろう。
しかも一番奥の席でバカ騒ぎをしているのが自分の兄だと思うと泣けてくる。
こともあろうか雀荘に杉野くんを連れ込むなんてどうかしている!!
「いやあ、杉野くんが麻雀打てて助かったよ。どうしても面子がひとり足りなくてさ。どこで覚えたの?」
「スマホのアプリです。あとはオンゲで対戦したり」
「現代っ子だな、杉野くんは」
「あざーす」
しかも、ノージョブズの仲間であるやーちんとゆーごともすっかり打ち解けているではないか。
(杉野くんって無職に好かれる才能があるの?)
さすがに、それ以上は見ていられなくて、私は雀荘の入り口から四人が遊んでいる雀卓までツカツカと歩み寄った。
私は兄の背後に立ち、腰に手を当て不動明王のように仁王立ちした。
「お兄ちゃん!!」
そう声を掛けると、兄は椅子からひっくり返りそうなほどのけぞる。
「うわ!!千佳!!どうしてここに!?」
「どうしたもこうしたもないわよ!!家にいないと思ったらこんなところで遊んで……。まったく!!」
先ほどまでのセンチメンタルな気分が台無しだ。私の涙にのしをつけて返して欲しいくらいだ。
……でも、しょうがない。この人の妹に生まれてしまったのも何かの縁だろう。
私はお兄ちゃんの目の前に先ほど食べ終えたお弁当箱を掲げたのだった。