私は冷蔵庫にしまってあったお弁当を取り出すと、そっと蓋を開けた。

お弁当箱の中に入っていたのは、甘く煮た油揚げでご飯を包んだおいなりさんだった。

(私の大好物……)

おいなりさんは特別な日にしか作らないメニューだった。

運動会、遠足、ピアノの発表会。

私にとって一大イベントが開催される日に家族総出で作った思い出の味だ。

冷蔵庫で冷えて固くなってしまったおいなりさんをひとつ、またひとつと口に運んでいく。

じわっと染み出るお揚げが甘くて、甘くて、涙が出そうだった。

お弁当って不思議だ。

好きなものが詰まっていても、嫌いなものが詰まっていてもどこかに愛情を感じる。

もしかしたら、お弁当にはこう成長して欲しいという作り手の願いが詰まっているのかもしれない。

私はおいなりさんを食べ終わるとお弁当箱を元通りに包みなおし、父に尋ねた。

「それで、お兄ちゃんは?どこ行ったの?」

「出掛けているよ。いつものメンバーで麻雀だ。ほら、商店街の雀荘だよ」

ああ、確かに。タピオカ屋とは反対側にある商店街に今にも潰れそうな古い雀荘があったな。

「また麻雀?ほんっとうに懲りないんだから」

兄の行方を聞いた私はやるせない気持ちになった。

ここらへんでひとつ、お灸を据えてあげるのが優しい妹の役目ってものかしら。

「出掛けるのかい?」

「うん」

「いってらっしゃい」

「いってきます」

父に見送られ私はお弁当箱を片手に下げながら、意気揚々と出掛けた。

始まりは十年前にした小さなおねだりだった。

離れ離れで暮らしていた期間の方が長い私達にとって、その小さなおねだりが今では絆となっている。