(やっぱりここはたまごサンドからでしょう)
サンドイッチは食べやすいようにひとつひとつ、一口サイズの四角形に切られている。
私はたまごサンドを手に取ると「いただきます」と言って、大きく口を開けて、パクリとかぶりついた。
(ううっ!!たまごサンド大好き~!!)
かぶりついた瞬間、パンからはみ出たたまごが唇の端にくっつく。
一欠片たりとも逃すまいと貴重なたまごを指で拭って、お行儀悪く舌で舐めとっていく。
十枚切りの薄めの食パンにはマーガリンが塗ってあって、うっすらと塩味がきいていた。
固茹で卵にマヨネーズと塩コショウを和えるだけで、なんでこんなに美味しくなるんだろう。あのぼそぼそとした茹で卵をとろっとろにしてくれる、マヨネーズの力は偉大だ。
……毎日たまごサンドでもいいのに。
そう言おうものならきっと兄は、栄養がーとか、コレステロールがーとかやかましいことをクダクダと述べてくる。
栄養のことよりも好きなものをたくさん食べたい年頃なんだよ。本当に兄は分かっていない。
たまごサンドは残り、二つ。
先に食べてしまうのはもったいないので、別のサンドイッチにも手を伸ばす。
薄切りのハムを幾重にも重ねチーズとレタスを挟んだハムサンドも大変美味である。
う~ん、でも……。やっぱり、たまごサンドが一番かな?
それぞれ一長一短があるのに、比べてしまうのは悪い癖だ。みんな美味しくて、みんないい。
「猪倉の弁当って毎日穂純さんが作ってんの?」
「そうだよ」
「へえ。昔から料理好きだったのか?」
「んーどうだろう。よく知らない」
紙パックに刺したストローをくわえながら、杉野くんが不思議そうに首を傾げる。
……ああ、そうか。
事情を知らない杉野くんにしてみれば、知らないと答えること自体に違和感があるのかもしれない。
「私、もともと母子家庭なんだけど、半年前に母親が事故で死んでから父親に引き取られてこっちに引っ越してきたの。お兄ちゃんとは十年ぶりに暮らし始めたばかりだから」
そう告げると、杉野くんはハッと目を丸くした。そして、サンドイッチを置くと申し訳なさそうに目を伏せた。