昼休みになると私はお弁当箱をふたつ持ってある人の元へと向かった。
「杉野くん」
遠慮がちに話しかけると友人に囲まれていた杉野くんがこちらを振り返る。
「……どうした?」
「あ、えっと……」
なんと続けてよいのか迷っている間に、杉野くんの友人が気を利かせてふたりきりにしてくれた。正直言って助かった。
杉野くんの友人は、杉野くんとどことなく雰囲気が似ている。つまり、初対面の人間の家に上がり込んでせんべいをご馳走になるほどコミュ力が高く、他人に話しかけることに一切の躊躇いがない。いつから会話をするような間柄になったのかを突っ込まれたらとっても面倒くさいことになりそうだった。
「これ、お兄ちゃんが昨日のお礼にって杉野くんの分まで作ったの。良かったら食べてあげて」
そう言って抱えていたお弁当箱をひとつ渡す。ようやく使命を全うできて、ホッと胸を撫で下した。まったく、兄の思い付きの行動には困ったものだ。私を小間使いにするなんていい度胸をしている。
「俺の分まで悪いな」
申し訳なさそうに首の後ろを撫でる杉野くんに対して、私は大きく首を横に振った。
「杉野くんに手伝ってもらったおかげでおひとり様限定商品が余計に買えたって喜んでたからいいと思う」
それでなくとも杉野くんには多大な迷惑を掛けているのだし、これくらい恩恵は受けて当然だ。
杉野くんに恩を売って以来、兄は彼を舎弟のようにこき使っている。
具体的に言えば、三日と空けずに呼び出しては、買い出しのお供を命じているのだ。
時にお買い得商品を買い漁り、クーポン券片手にレジに並ぶ。
ここに、スエット姿の無職と制服を着た男子高生による異色コンビが誕生したのである。
(本当に可哀想……)
私は密かに杉野くんに同情していた。
兄にさえ関わらなければもっと真っ当な人生が送れたはずなのにと、あの日ふたりが出会ってしまったことが心底悔やまれる。
髪の毛こそ金色だが杉野くんは、礼儀正しく、真面目な性格だ。兄からの呼び出しに律儀に応じていることからも、それは明らかである。
男女問わず友人も多く、素行だって悪くない。成績は良好で、中間テストでは成績上位者として廊下に名前を張り出されていた。先生方も杉野くんの金髪は大目に見ている節がある。
(何で金髪なんだろう……)
そうは思っても立ち入った事情に深く立ち入れるほど、私と彼は親しくない。