「いや、マジで助かった。俺、こんな頭だからなんもしてないのに目をつけられることもあって……。あの人がいなかったら、今頃警察だったかも」
「お兄ちゃんでも人の役に立つことがあるんだね」
スーパーに行くついでにちょっと人助けなんて、ラノベの主人公でも出来ない。
てっきり、棚からぼた餅的な偶然の産物なのかと思っていたけれど、ちゃんと感謝してもらえるなんて無職のくせにやるじゃん。
「ねえ、千佳にとって俺ってどういう存在よ?」
「尊敬されたかったら、尊敬されるようなことをしたら?」
「またまた。このままでも素敵なお兄様だろ」
兄はそう言うと私が買ってくるように頼んだ最中アイスの袋をペリッと開けてひとかじりした。
「そういうとこだよ!!」
杉野くんはせんべいを完食し、麦茶を飲み干すと、空になったグラスをちゃぶ台において口元を手で拭った。
「ごちそうさまでした。じゃ、俺今度こそ帰るんで」
そう言って今度こそ帰るべくウエストポーチを肩に掛けなおし座布団から立ち上がった。
玄関まで見送ろうと私も一緒にその場から立ち上がる
「ちょっと待った!!」
「は?」
一度ならず二度までも引き留められ、今度は何事だと険しい表情で兄を睨みつける。
「一緒にお茶を飲んだら二人はもう友達だよな?」
「何言ってんの?」
酔っぱらってんの?まあ、うちの兄は常時酔っぱらっているようものだけど。
一緒にお茶を飲んだくらいで先ほどまで会話もしたことなかった男子と友達になれるものか。せいぜい顔見知りぐらいが関の山だろう。社会と隔絶され過ぎたせいで他人との距離感も分からなくなってしまったのか。兄は下手くそなウインクで合図を送る。
「駅前にタピオカのお店があるから二人で行ってきなさい。今から行けば閉店には間に合うだろ?」
「はあああ!?」
なんでタピオカ!?
「はい、お小遣いあーげーる」
兄はうふふと気味の悪い笑みを浮かべながら、私の手のひらに五千円札をのせた。
一杯ジュースを飲んでくるだけで五千円札を渡してくるなんて、大盤振る舞いもいいところである。
「杉野くん、悪いけど帰りは妹を家まで送ってくれるかい?」
「……わかりました」
杉野くん!!そこは断ろうよ!!
弱みでも握られているのか、杉野くんは兄の言いなりである。
「行こうぜ、猪倉」
こうして、なぜか私は杉野くんとタピオカを飲みに行くことになった。