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「どうぞ」

「……ども」

玉露なんて上等な代物はないので、水出し麦茶をグラスに入れてちゃぶ台の上にそっと置く。

お茶くらい飲んでいけとすすめた張本人はホクホク顔で買ってきた食材を冷蔵庫に入れている。

居間でふたりきりにされてしまった私は内心焦っていた。

(なにか話さなきゃ……)

あいにく初対面の人間と楽しい会話ができるスキルは持ち合わせていないので、無難な話題を選ぶ。

「えっと……杉野くんって何年何組?」

年上かもしれないがまだ年齢を聞けていないので、とりあえず杉野くんと呼んでおこう。

「一年一組」

杉野くんからそう告げられると、私の口から「えっ」と驚きの声がもれる。

「同じクラスだし……」

言われてみればクラスメイトの中にやたらと目立つ金髪の男子がいたような気がする。

残念ながら女子ともまともに話せていないのに、男子の顔と名前が一致するはずないのだ。

「俺は知ってたよ。よく変な顔で弁当食べてるだろう」

杉野くんから指摘され、思わず手で顔を覆った。

(うわあ……。恥ずかしい……)

こちらは杉野くんの顔と名前すら分からなかったというのに、彼は私がひとりでお弁当を食べていることも知っていた。

その上、変な顔とはどういうことだ。

あれか?苦手な食材が弁当に入っていると食べるときにどうしても眉間にしわが寄ってしまうことか?

とにかく、これからは表情筋に気をつけよう。思わぬところで恥を晒した私は、自分を落ち着かせるようにコホンと咳払いをした。

「あ、菓子食うか?さっき買ってきたばかりのせんべいがあるぞ」

冷蔵庫に食材を格納し終えた兄が、居間にやって来るなりせんべいの袋をちゃぶ台に置いていく。

せんべいで喜ぶ男子高校生がいるものかと思ったが、杉野くんは素直にせんべいを食べ始めた。

「よし。食え食え!!」

「うっす」

ボリボリ、ガリガリと小気味よいせんべいの音が居間に響くと、兄に絡まれてしまった杉野くんに尚更申し訳ない気持ちになっていく。

「こんな兄でごめんね……」

口の中がパッサパサになっちゃうせんべいなんて食べさせてすまない。せめてもの償いにと麦茶のお代わりを注いであげる。