「“また春が来た――今年もまた別れと出会いを繰り返す無為な季節が訪れた”」

冒頭の一節を読み上げると、兄の表情がみるみる変わり、それこそいんげんのような渋い緑色になった。

「何を読んでるんだよ!?」

「もちろん、お兄ちゃんが高校時代に授業で作った詩に決まってるじゃない」

「なんでそんなもの持ってんだよ!?」

「教えなーい」

「返せ!!」

「返してほしかったら、金輪際、いんげんをお弁当に入れないって誓いなさい!!」

「やなこった!!」

「じゃあ、返さない!!」

プリントを持ったまま居間から逃げ出すと、兄が後から追いかけてくる。

プリントを処分したところで、バッチリ写真も撮ってあるから無駄だもんねー。

「仲良いな」

「まったくだ」

やーちんとゆーごはいんげんを巡る私達の戦いの行方を静かに見守っていたのだった。