「いいか、千佳?この世には二種類の人間がいる。働いている人間と働いていない人間だ」

兄はごくごく当たり前のことを言いながら、真顔で私の肩に手を置いた。

「ドヤ顔で言うことなの?」

「大きな括りで見たら俺と千佳は同類なんだぞ。そこはキチンと理解できているか?」

「え、待って!!いくらなんでもおかしくない?一緒にしないでよ!!」

いきなり同類扱いされて、私が慌てて兄に抗議した。兄は詭弁を弄して私を自分達のところまで貶めそうとしている。

一緒くたにされるなんて心外だ!!

「まあまあ、その辺にしたらどう?千佳ちゃんも学校から帰ってきたばかりで疲れているだろう?」

ゆーごは甘いマスクそのままに、私と兄の不毛な兄妹喧嘩の間に割って入った。なるほど、こうやって味方のふりして女性を騙すのかと、彼の手口を垣間見た気がした。

「なあ、早く続きやろうぜ」

やーちんが麻雀牌を両手でジャラジャラとかき混ぜ、兄の分も一緒に牌を積み上げていく。

ノージョブズから解放された私は二階の自室に引き上げると、ようやく私服に着替えることができた。

私服に着替えると麻雀をしている三人組のことはお構いなしに、庭に干してあった洗濯物を取り込み、人物別に畳んでいく。

(あ、忘れてた)

洗濯物の途中だったが私は二階の自室に戻り、通学バッグを漁りお弁当箱を取り出した。

「はい、お弁当箱」

麻雀の最中だった兄の元に空のお弁当箱を持っていくと、佳境にもかかわらず兄は渡された弁当箱を左右に振って嬉しそうに頷いた。

「よしよし、今日も空だな」

作ってもらうばかりではさすがに悪いので、お弁当箱ぐらい洗おうかと提案したけれど、兄は頑なにそれを拒んだ。空になったお弁当箱を洗うのが楽しいんだって。ホント、変わってる。

「ねえ、なんでいんげん入れたの?」

「美味いじゃん。いんげん」

「美味しくないから言ってるの」

「はあ?いんげん様の美味さがわからないなんてお子ちゃまだな」

にんじんさんの次はいんげん様か。

野菜を擬人化して崇めるくらいなら、私の意見だってもっと尊重して欲しい。

「青臭いし、変な食感でしょ」

「青臭さなら、断然お前の勝ちだろ。よっ、現役女子高生」

兄はニヤリと笑い、私に大して面白くもない掛け声をかけた。

「その言い方、親父臭いよ……」

うげえと吐きだす真似をすると、兄は更にクックックと声を上げて笑い出した。

自分だって昔は高校生だったくせに。

普段の私ならここで身を引くところだが、今日はいつもと一味違うんだから。

自分が高校生の時にどんだけ青臭かったことか、教えてあげましょう。

私はジーンズのポケットに忍ばせていた茶封筒を取り出し、例の詩を朗読し始めた。