「やーちんは常に自宅を週七で警備」

やーちんと名前を呼ばれた男性が、私に向かってピースサインを送る。

鼻の下とあごに立派なひげを蓄え、金色のアクセサリーを首から下げているやーちんは家の中でも決してニット帽を取らない。

……私は心の中でそっと呟いた。

(やっぱ無職じゃん……)

週七で自宅警備って、それは無職以外のなにものでもない。警備なら本職のセ○ムに任せておきなさいよ。素人よりもよほど安心だ。

「ゆーごは彼女のために毎日家事労働」

ゆーごと名前を呼ばれた男性は、ニコリと私に流し目を送る。斎条先生とは種類が異なるが、こちらの男性も女性が好みそうな甘いマスクをしている。

まあ、こちとらまだ初恋もまだなんで。流し目を送られても、そういうの一切効かないんで。

(こっちも無職かい……)

毎日働かずに家事してるって、そこは仕事しときなさいよ。仕事もしないで彼女に小遣いもらって養ってもらっている男性をヒモって言うんだっけ?
家事なら家政婦を雇え。もしくはル○バに頼め。このヒモ男。女性の敵め。

「そして俺は千佳専用の弁当職人」

最後に誇らしげな笑みを浮かべるのは、兄だ。妹専用の弁当職人なんて自慢にもならないが、兄にとってはそうではないらしい。

叱られるのではないかとビビっていた私は、一気に脱力した。

「言い方変えても、もれなく全員無職じゃん……」

もっとやむを得ない事情があるのかと思いきや、どれもこれも大した理由ではない。

ご丁寧に説明してもらって悪いけど、私の認識は一ミリたりとも変わらない。説明の時間がもったいないくらいだ。

「っていうか、お兄ちゃんは私がこの家に来る前から無職じゃない。勝手に話を上書きしないでくれる?」

「チッ。バレたか」

どさくさに紛れて、妹のためにけなげに弁当を作る兄の図が出来上がるところだった、危ない危ない。

「ま、千佳が思っているよりこの世に無職は大勢いるんだ。分かったらあんまり突っかかってくるなよ?」

「いい大人が働きもせず、昼間からお酒と麻雀に興じていたら、学生の身分でも説教のひとつもかましたくなりますー」

そう言いながら空き缶を入れたゴミ袋を兄に押し付ける。お酒と麻雀は百歩譲ってやるとして、ごみぐらいは片付けてよね。本当にやんなっちゃう。