25歳の元シェフ・伊月は、独身で大学教授の叔母に請われ、彼女が所有する食事付きシェアハウスで食事を作っている。法医研究員や小説家など、個性豊かな住人に頼まれれば、深夜でも食事を作る。ある夜、仕事帰りで空腹の法医研究員・友紀奈に親子雑炊を作ったら、それをヒントに彼女は事件の解決に貢献し、夜食として雑炊を差し入れた作家・裕隆は新作を書き上げることができた。そうして誰かのために料理を作ることが、今の伊月の生きる糧だ。叔母には伊月が友紀奈に対してだけ毒舌なのは、彼女のことが好きだからだろうと言われるが、伊月は友紀奈によく似た性格の女性を忘れられずにいた。それは二年前に亡くした年上の幼馴染みで恋人の紫乃。余命わずかと宣告された紫乃のため、仕事を辞めて看病をしていたら、死の直前、「今度は私のためじゃなく、誰かほかの人のためにおいしいごはんを作ってあげて」と言われた。伊月は紫乃の言葉に応えるために、今日も誰かのためにおいしいごはんを作る。