大きな交差点の少し手前で見慣れた背中が目に入ってきた。紺のスーツ姿。背丈は標準的で少し細め。間違いない。琉一だ。
 
 私は小走りで彼に駆け寄った。
 
「よっ」

 意識しての気安い挨拶。朝一から琉一の顔が見えて心が踊るが、お首にも出さないよう心がけている。意識しているのは適度な距離感。付き合い自体は長いが、琉一自身の本当での意味のテリトリーの中には入れていない。幼馴染という友達以上家族未満の曖昧なエリアをただ右往左往しているだけで、今尚迷走は続いている。
 
「おはっ」

 琉一もまた笑顔で軽く手を上げた。目尻に目一杯皺の寄る琉一の笑い方が好きだ。その笑顔を見て感じるものは、尻尾を振りまくっている子犬を見た時の心のほぐされ方に近い。