無理やり空っぽにした脳裏に、いつかテレビのドキュメンタリー番組で見た、ある野犬の映像がぽかりと浮かんだ。争いに負けて群れを追われ、今までの居場所に戻れなくなった野犬が、遠くから仲間たちを見ている横顔。
 はたから見ればもしかしたら、教室で息をひそめている私も、昔の友達をこっそり覗き見ている私も、あの野犬と同じような顔をしているように見えるのかもしれない。
 嫌だ、と思った。私は別にひとりでも平気なのに、そんな不様で哀れな姿なんて晒したくない。
 過去には戻れない。未来も明るいなんて限らない。
 過去を振り返っても、未来を夢見ても、なにも意味はない。『今、ここ』だけが私の居場所だ。その場所がどういうものかなんて、居心地がいいかどうかなんて、考えるだけ無駄だ。どうせなにも変わらないのだ。
 私はもう一度ぶんぶんと頭を振り、生徒玄関に向かって黙々と足を動かした。
 あの三人のことは、もう忘れよう。いくら昔同じ時間を過ごしたからといって、今はもう私とは無関係なのだ。彼らがどうしていようと私には関係がない。