リノリウムの床を打つ上履きを凝視しながら、生徒玄関へと繋がる廊下を歩く。
 時間的にまだ終礼の終わっていないクラスも多いので、あたりにはほとんど人がいない。たくさんの生徒がひしめく空間にいると気分が悪くなるので、いつも放課後はなるべく誰もいないうちに校舎を出ることにしているのだ。
 向こうから他クラスの集団がやってきた。大きな笑い声をあげながらふざけ合っていて、こちらに気づく様子もなく廊下の真ん中を歩いてくるので、ぶつからないように私は端に身を寄せた。反射的に顔を背けて窓の外を見る振りをする。
 次の瞬間、私は動きを止めた。すらりと背の高い男子と小柄で華奢な女子が肩を並べて、校門に向かって歩いているのが目に入ったからだ。
 ここからの角度だと顔は見えないけれど、見慣れた背格好や歩き方で、誰なのかはすぐに分かる。白川冬哉と香山春乃――私の幼馴染だ。
 思わずふたりの姿を目で追いかけていた数秒後、今度は呼吸が止まった。彼らの少し前を、俯きがちに歩いている男子に気がついたのだ。ほっそりとした身体と柔らかく風になびく髪、少し猫背ぎみの後ろ姿。間違いない。もうひとりの幼馴染、金森千秋だ。
 ゆっくりと歩を進めていた千秋が、ふいに顔を上げた。ちょうど春乃たちが彼に追いつき、横で足を止める。どうやら彼女たちが声をかけたらしい。
 私は思わず、「え」と声を上げてしまう。まさか彼らが接触するとは思わなかったのだ。
 私が知る限り、昔から特に仲の良かった冬哉と春乃は、今でもときどき校内でふたりでいるのを見かけたけれど、そこに千秋が加わるのは見たことがなかった。
 だから私は、軽く挨拶をするだけだろうと予想した。でも、彼らはその場で会話を始めた。
 当たり前のように顔を合わせて言葉を交わす三人を見て、私の心の中には、自分でもよく分からない、なんとも言いようのない感情が込み上げてきた。