「いきなり文化祭の発表を考えるって言っても難しいだろうから……そうだね、まずは、それぞれの季節について思い出話をするってどうかな」
 四季を愛でる会、というネーミングを考えると、やっぱり季節に関するなにかを発表すべきだろう。でも、テーマがあまりにも広くて漠然としすぎているので、簡単にアイディアが出るとは思えない。だから、まずは自由に思い出話をして春夏秋冬のイメージを固めていけば、なにかいいアイディアが浮かぶのではないか、と考えたのだ。
 ただの咄嗟の思いつきだったけれど、三人は「それ、いいね!」と頷いてくれた。
「じゃあ、まずは春ね」
 言い出しっぺから始めるべきだろう、と思って私が口火を切った。
「私は、春といえばやっぱり、いつも遊んでた公園の桜の木かな。満開になると空いっぱいに広がって綺麗だったよね」
「桜吹雪とか、地面に落ちた花びらも、すごく綺麗だった」
 千秋が懐かしそうに目を細める。そういえば、彼は春になるとよく公園の桜の絵を描いていた。
 春乃が「私はねえ」と口を開く。
「ひらひら飛ぶ蝶々を追いかけたのとか、白詰草の花冠を作ったのとか、いい思い出だな」
「花冠懐かしい! よもぎをたくさん採って、みんなで草餅作ったこともあったよね」
「大変だったけど美味しかったよな」
「あとは、公園でしゃぼん玉飛ばしたり、ブランコ競争も楽しかったなあ」
 春乃の言葉に冬哉が笑う。
「しゃぼん玉とブランコは別に春限定じゃなくね?」
「えー、なんか春っぽいじゃん!」
 私は記憶の糸を手繰り寄せながら「たしか……」と口を開いた。
「しゃぼん玉とブランコは春の季語だよ。だから春乃のイメージは合ってると思う」
 冬哉が驚きの声を上げた。
「えっ、ブランコに季節なんてあんの!? なんで?」
「ごめん、由来は知らないけど……。でも、暖かくなると外で遊べるようになるから、そういう遊びしたくなるよね」
「なるほどー。ごめんな春乃、お前が正しかった」
「えへへ、私の季節だからね」
 冬哉は「よく言うわ」と笑ってから、
「じゃ、次は夏な。俺はやっぱ祭りだな!」
「だよねえ。地元の夏祭り、よくみんなで行ったね」
「小っちゃい祭りだから、近所のおばちゃんたちがつくる焼きそばとイカ焼きとかき氷くらいしかなかったけどな」
「冬哉はいつも焼きそばばっかり食べてたよね」
「イカ嫌いだからな。って、そう言う千秋はかき氷三杯食ってたじゃんか!」
「熱い食べ物苦手だから……」
「猫舌か!」
「ジャングルジムに登って、港祭りの花火も見たよね」
「あったねー! めっちゃ小っちゃくしか見えなかったけどね」
「あとはやっぱり、プールと海水浴だね」
 次々と溢れ出す、懐かしい思い出たち。弾けるように明るく、直視できないほどに眩しい。
 私は少し苦い気持ちをおもてに出さないように息を整えつつ、三人の口から飛び出す言葉たちをノートにメモしていった。