そういえば、とふいに思い出す。私は強いて言えばカードゲームやボードゲームが好きだったけれど、遊びを決める自分が好きなものを提案するのはなんとなく気が引けて、それに他の三人が好きな遊びでも十分に楽しめたので、自分からはそれらで遊ぼうとは言い出さなかった。千秋がたまに『俺、今日はトランプしたい』とか『今度オセロやろう』などと珍しく主張してきたときだけ、『じゃあそうしよう』と答えるくらい。
「そういえばそうだったね」
春乃が感心したように私を見る。
「光夏ちゃんが好きな遊びはめったにしなかったよね」
「ああ、そうだったな。光夏は俺たちのために我慢してくれてたんだよな」
冬哉がにこりと笑いかけてきた。私はどんな顔をすればいいか分からなくて、少し顔を背ける。
「そういうわけじゃないよ、全然。我慢なんてしたことない。ただ、それほどやりたいことがなかっただけ」
「えー、うそだあ。だって光夏ちゃん、神経衰弱とかオセロとかのとき、すごく生き生きしてたもん。本当はそういう、頭を使うゲームが大好きだったんでしょ?」
「別に好きってほどじゃないよ。強いて言えば、って程度。だから、我慢だなんて全く考えてなかった」
「もっと自己主張してくれてもよかったのに」
千秋の言葉に、思わず目を見張った。私は自己主張の塊みたいなタイプですけど? と反発が口から出そうになる。
「びっくり、って顔してる」
千秋はおかしそうに笑みを洩らした。
「光夏は、まだ自分を知らないんだね」
そう言って彼は、ふいにこちらへ手を伸ばした。
なんだろう、と思った直後、ぽん、と頭に軽い感触と、そして温もりを感じる。それからくしゃりと柔らかく髪を撫でられる感覚。
思わず口をあんぐりと開けたまま凍りついていると、千秋がはっとしたように手を止め、頬を微かに赤く染めた。
「あ、ごめん、思わず……」
千秋の手がそろそろと引いていく。
「あ、いや、別にいいんだけど……」
ふるりと首を振った瞬間、春乃と冬哉が同時に声を上げた。
「ひゃあ~、二人の世界!」
「ちょっと! 俺らのこと忘れてない!?」
「わ、忘れてない、忘れてない!」
私は今度はぶんぶんと首を振った。その横で千秋は、
「ちょっとだけ、忘れてた……」
と小さく言った。冬哉はあははと笑ってから、「それはいいとして」と口調を改めた。
「光夏が我慢ばっかしてたって話だよ。ほんとにさ、自分より他人優先だよな。まあ、気づかなかった俺らも悪いけど」
「そうだよねえ。私、自分のことしか見えれてなかったな。光夏ちゃんは当たり前みたいに全員のこと考えてくれてて、すごいよね」
冬哉と春乃の言葉に、私は「そんなことない」と答える。
「それは私も一緒……ていうか、私のほうこそ、みんなの気持ちも考えずに勝手に仕切っててごめん」
「え!? なんでそんなこと言うの!?」
春乃は心底驚いたという顔だった。
「光夏はいつだって俺たちの中心で、誰より信頼できる存在だった」
見たこともないくらい優しい微笑みだった。
「いや……ほんとに私、そんなふうに言ってもらえるような……」
顔の前で手を振って否定しながら、ふと思う。千秋は、もしかして私のために、トランプがしたいと言ってくれていたんじゃないだろうか。
ふ、と唇が歪んだ。そんなわけない。なんの根拠もない、自分勝手な勘違いだ。
「……そんなことより!」
都合のいい考えを振り払うように声を上げた。
「時間がもったいないから、話し合い始めよう」
「はーい」
「はーい」
春乃と冬哉がくすくす笑いながら手を挙げる。でも、千秋だけは、どこか寂しそうな瞳でじっと私を見ていた。
そんな目で見ないでよ、という言葉を必死に喉元で押さえて、気づかぬふりで口を開く。
「そういえばそうだったね」
春乃が感心したように私を見る。
「光夏ちゃんが好きな遊びはめったにしなかったよね」
「ああ、そうだったな。光夏は俺たちのために我慢してくれてたんだよな」
冬哉がにこりと笑いかけてきた。私はどんな顔をすればいいか分からなくて、少し顔を背ける。
「そういうわけじゃないよ、全然。我慢なんてしたことない。ただ、それほどやりたいことがなかっただけ」
「えー、うそだあ。だって光夏ちゃん、神経衰弱とかオセロとかのとき、すごく生き生きしてたもん。本当はそういう、頭を使うゲームが大好きだったんでしょ?」
「別に好きってほどじゃないよ。強いて言えば、って程度。だから、我慢だなんて全く考えてなかった」
「もっと自己主張してくれてもよかったのに」
千秋の言葉に、思わず目を見張った。私は自己主張の塊みたいなタイプですけど? と反発が口から出そうになる。
「びっくり、って顔してる」
千秋はおかしそうに笑みを洩らした。
「光夏は、まだ自分を知らないんだね」
そう言って彼は、ふいにこちらへ手を伸ばした。
なんだろう、と思った直後、ぽん、と頭に軽い感触と、そして温もりを感じる。それからくしゃりと柔らかく髪を撫でられる感覚。
思わず口をあんぐりと開けたまま凍りついていると、千秋がはっとしたように手を止め、頬を微かに赤く染めた。
「あ、ごめん、思わず……」
千秋の手がそろそろと引いていく。
「あ、いや、別にいいんだけど……」
ふるりと首を振った瞬間、春乃と冬哉が同時に声を上げた。
「ひゃあ~、二人の世界!」
「ちょっと! 俺らのこと忘れてない!?」
「わ、忘れてない、忘れてない!」
私は今度はぶんぶんと首を振った。その横で千秋は、
「ちょっとだけ、忘れてた……」
と小さく言った。冬哉はあははと笑ってから、「それはいいとして」と口調を改めた。
「光夏が我慢ばっかしてたって話だよ。ほんとにさ、自分より他人優先だよな。まあ、気づかなかった俺らも悪いけど」
「そうだよねえ。私、自分のことしか見えれてなかったな。光夏ちゃんは当たり前みたいに全員のこと考えてくれてて、すごいよね」
冬哉と春乃の言葉に、私は「そんなことない」と答える。
「それは私も一緒……ていうか、私のほうこそ、みんなの気持ちも考えずに勝手に仕切っててごめん」
「え!? なんでそんなこと言うの!?」
春乃は心底驚いたという顔だった。
「光夏はいつだって俺たちの中心で、誰より信頼できる存在だった」
見たこともないくらい優しい微笑みだった。
「いや……ほんとに私、そんなふうに言ってもらえるような……」
顔の前で手を振って否定しながら、ふと思う。千秋は、もしかして私のために、トランプがしたいと言ってくれていたんじゃないだろうか。
ふ、と唇が歪んだ。そんなわけない。なんの根拠もない、自分勝手な勘違いだ。
「……そんなことより!」
都合のいい考えを振り払うように声を上げた。
「時間がもったいないから、話し合い始めよう」
「はーい」
「はーい」
春乃と冬哉がくすくす笑いながら手を挙げる。でも、千秋だけは、どこか寂しそうな瞳でじっと私を見ていた。
そんな目で見ないでよ、という言葉を必死に喉元で押さえて、気づかぬふりで口を開く。