「じゃあ、今日はまず、アイディアをどんどん出して、メモしていこう」
 文化祭に向けての話し合い一日目。
 まずはみんなの意見を出し合うべきだろうと考えて、ノートを開いてペンを手に告げると、三人は微妙な反応を見せた。
「えー、でも、そんないいアイディア、すぐには思いつかないよ……」
 戸惑ったように言う春乃を安心させるように笑いかける。
「いいアイディアじゃなくていいの。ブレインストーミングって感じでいこう」
「え、ブレインストーミングってなんだっけ……」
 私の言葉に、春乃がえへへと笑って両頬に手を当てた。
「あー、ほんのり聞き覚えはある……。一学期に授業でやったよな? LHR(ロングホームルーム)だったっけ?」
 冬哉も顎に手を当てている。
「そういえばなんかそういうのやったね。たしか総合学習の時間じゃなかったかな。でも、なにやったんだったかな……」
 千秋は考え込むように小首を傾げた。
「えー、誰も覚えてないの……?」
「光夏みたいに真面目に授業受けてないから……ごめん」
 私は小さく息を吐いて、「じゃあ、説明するね」と言った。
「ブレインストーミングっていうのは、直訳すると『頭脳の嵐』で、みんなの頭脳を嵐みたいにぐちゃぐちゃに混ぜ合わせるようにして、とにかくたくさんの意見を出し合っていく話し合いの方法ね」
「ほう、なるほど」
「ルールは四つ。否定しない、自由に発言する、質より量を重視、アイディアを結合する」
「え、なんか難しそう……」
「もうちょっと分かりやすく噛み砕いて……」
「うーんと、結論を出すのが目的じゃないから、これはいいとかこれは実現不可能とか判断したり批判したりしない。自由で話しやすい雰囲気をつくって、生真面目で常識的な意見よりも、ユニークで奇抜で斬新なアイディアを歓迎する。そのほうが新しい発見につながりやすいんだって。あと、いいアイディアを出すことよりも、とにかく数をたくさん出すことを重視する。そして、他人のアイディアにどんどん便乗していいから、くっつけたり切り分けたりして、新しいアイディアを生み出していく」
「ほー!」
「すごい、光夏ちゃん!」
「よく覚えてるね、さすが」
 三人がまた大袈裟に褒め称える。やっぱり居心地が悪い。
 というか、久しぶりにこんなにべらべら喋ったな。もしかして、喋りすぎ? うざい?
 不安になって彼らの顔色を窺ってみたけれど、三人とも目を丸くして微笑みながら拍手をしているので、なんだか拍子抜けした。