俯いて自分の爪先を見つめたまま、ドアに手をかける。瞬間、エアコンで人工的に冷やされた空気がいっきに溢れ出してきて、私を包んだ。
 ぶるっと軽く身を震わせて、一歩踏み出す。もちろん俯いたまま。
 それでも、視界の端には教室の景色が飛び込んでくる。等間隔に並んだ同じ机と同じ椅子、そして同じ制服に身を包んだクラスメイトたち。
 代わり映えのしない光景にうんざりしながら、私は黙々と足を動かして机の隙間を通り抜け、自分の席の椅子を引いた。なるべく音を立てないように、軽く持ち上げて、そっと床に下ろす。
 少しでも気配を消すために、余計な動きは控え、避けられない行動についてはそれに付随する音を極力抑えるようになったのは、いつからだろうか。考えてみるけれど、頭が思考を拒否するようにぼんやりとしていて、思い出せない。
 椅子に腰を下ろし、鞄をそっと机上に置いてから、小さく顔を上げて黒板の右側を見た。ひどく適当に消されたらしく薄ら残っている昨日の日付の上に、日直の男子の乱雑な文字で【十四】と走り書きされている。
 九月十四日。新学期が始まってから、もう二週間も経っているのか、と思った。死んだように過ごしているせいか、なんだか実感がない。
 そして、“あの日”から――私の学校生活が一変してから、とうとう三ヶ月だ。
 ほんの三ヶ月間のはずなのに、もうずっと何年も“こんな”生活をしていたような気がする。